第154回国会 内閣委員会 第17号
平成十四年七月二十三日(火曜日)
   午前十時開会
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   委員の異動
 七月十八日
    辞任         補欠選任
     山根 隆治君     直嶋 正行君
     紙  智子君     筆坂 秀世君
 七月十九日
    辞任         補欠選任
     直嶋 正行君     山根 隆治君
 七月二十二日
    辞任         補欠選任
     筆坂 秀世君     吉岡 吉典君
 七月二十三日
    辞任         補欠選任
     田嶋 陽子君     福島 瑞穂君
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  出席者は左のとおり。
    委員長         佐藤 泰介君
    理 事
                斉藤 滋宣君
                松村 龍二君
                森田 次夫君
                長谷川 清君
                吉川 春子君
    委 員
                亀井 郁夫君
                竹山  裕君
                西銘順志郎君
                山崎 正昭君
                岡崎トミ子君
                川橋 幸子君
                山根 隆治君
                白浜 一良君
                森本 晃司君
                吉岡 吉典君
                島袋 宗康君
                福島 瑞穂君
                黒岩 宇洋君
       発議者      岡崎トミ子君
       発議者      吉川 春子君
   委員以外の議員
       発議者      円 より子君
       発議者      千葉 景子君
       発議者      八田ひろ子君
       発議者      大脇 雅子君
       発議者      田嶋 陽子君
   副大臣
       外務副大臣    杉浦 正健君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        舘野 忠男君
   政府参考人
       内閣官房内閣参
       事官       新田 秀樹君
       文部科学省初等
       中等教育局長   矢野 重典君
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する
 法律案(第百五十三回国会円より子君外六名発
 議)(継続案件)

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○委員長(佐藤泰介君) ただいまから内閣委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 本日までに、紙智子さん及び田嶋陽子さんが委員を辞任され、補欠として吉岡吉典君及び福島瑞穂さんが選任されました。
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○委員長(佐藤泰介君) 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案の審査のため、本日の委員会に政府参考人として、内閣官房内閣参事官新田秀樹君及び文部科学省初等中等教育局長矢野重典君の出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(佐藤泰介君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
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○委員長(佐藤泰介君) 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案を議題といたします。
 本案につきましては既に趣旨説明を聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○森田次夫君 おはようございます。自由民主党の森田次夫でございます。発議者の皆さん、大変御苦労さまでございます。
 本法律案は、女性の尊厳にかかわる問題でございますので、私としてもできるならこういう法案について質疑なり議論なりしたくない、これが実は私の本心でございます。しかしながら、これも役目でございますので、今日は野党的立場からひとつ質問をさせていただきたいと、このように思いますので、よろしくどうぞお願いを申し上げたいと思います。
 そこで、最初に二点について確認をさせていただきたいと思いますけれども、本法律案の名称でございますけれども、戦時性的強制被害者問題云々と、こうなっておるわけでございますけれども、これは従来から発議者が用いられてきたいわゆる従軍慰安婦、これと一緒だと、こういうような理解でよろしいのかどうなのか、イエス、ノーで結構でございますので、お答えをいただきたいと思います。
○委員以外の議員(円より子君) おはようございます。
 イエス、ノーでよろしいという御質問でございますが、最初に、今、先生がおっしゃった女性の尊厳の回復について、長年多くの方々が要望していらしたこの法案がようやく大勢の方々の御努力のおかげでこうして審議できますことに感謝したいと思います。
 そして、答弁申し上げますが、先生のおっしゃるとおり、いわゆる従軍慰安婦のことを指しておりますが、なぜ戦時性的強制被害者としたかと申しますと、被害者はその意に反して慰安所に連れていかれ性的行為を強制されたものでありまして、従軍慰安婦といたしますと自発的な行動であるかのように誤解を生みかねない、また被害の実態を反映したものとは言えないと思います。また、そればかりか、被害者に対するいわれなき非難、中傷を招くことになり、むしろ被害者を二重に傷付けるおそれのある極めて適切さを欠く表現だと思いまして、私たちは戦時性的強制被害者という文言にしたわけでございます。
○森田次夫君 はい、分かりました。
 ちょっと、三十分しかございませんので、ひとつ簡単明瞭にお願いいたします。
 二つ目の確認事項でございますけれども、これは、いわゆる旧軍の強姦と申しますか、そういったものも含まれるのか含まれないのか、この法案に、これもイエス、ノーで結構でございますので、お答えください。
○委員以外の議員(円より子君) 強姦につきましては、戦地において兵士が単独で強姦を行った場合や、何人かの兵士が集団で強姦等を行ったが、そのような行為が一回限りで反復継続されなかったような場合の強姦は含まれません。
○森田次夫君 一回限りというようなことを今ちょっとおっしゃいましたけれども、それが反復というか、あれを見てみますと、目的のところに、旧陸軍関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性行為の強制が行われたとあるわけですけれども、軍の関与の下で組織、継続的に強姦が行われたというようなことはちょっと、到底考えられないわけでございますけれども、ちょっと法律としては品性を欠くんじゃないか、そういうふうに思うわけでございます。
 そこで、文言の修正等を私はすべきだと思うんですけれども、この辺いかがでございましょうか。
○委員以外の議員(円より子君) 一回限りの強姦はこの法案の対象としておりませんけれども、旧日本軍が犯した強姦というのは許し難い犯罪でございまして、この法案が品性を欠くというのは、ちょっと先生のおっしゃることが私たちは解せないのでございますけれども、もちろん、強姦が免罪されるものではないことは当然でございまして、軍の正規の指揮命令に従って行われた行為でなくても、集団的な行為という形の強姦は様々な公文書にも指摘されておりますし、証言にもございます。
 こうした組織的に行われたものというのはこの法案の中に含めるというふうに考えておりまして、御存じだと思いますけれども、旧日本軍が慰安所をなぜ設置したか、必要としたかの理由の一つに、日本軍人による強姦事件が多発したことがございます。これら強姦事件の防止には、慰安所の設置ではなくて、実は、軍隊内の人権の確立やまた兵士の待遇改善及び犯罪への厳重処罰で対処すべきであったと思うんですが、それを、軍の士気が下がるということで、強姦を何とか予防するために慰安所を作ったわけで、こういった行為も、それからその前にあった、またその後もあった集団的な強姦というものは許されるものではありません。それが入っておりますし、また単独の行為は一応この法案では外しているというのが現状でございます。
○森田次夫君 分かりました。単独ということじゃなくて、組織的、継続的にと、こういうことでございますけれども、そういった事例というのは大体どのくらいあるんですか。数がある程度分かれば教えていただきたいと思います。
○吉川春子君 どの程度そういうことが行われたかという御質問に対して答えるとすれば、それは数限りなく、想像を絶する回数そういうことが行われたというふうに私は答弁します。
○森田次夫君 分かりました。私、この法案は強姦の方も含んでいないというふうに実はちょっと理解しておりましたものですから、そうしたら、今そういうような御答弁なものですから、あれ、ちょっと私が承知していたのと違うなということを今ちょっと印象として持ったわけでございます。
 そこで、この法案の第三条は、政府ができるだけ速やかに、かつ確実に謝罪の意を表することを求めているが、速やかかつ確実な謝罪の表明とは、だれが、どのような場で、いかなる形でしなければならないのかということでございますが、何かすべてがあいまいもことしているような、そういった印象を受けるわけでございます。
 これまで我が国の歴代総理あるいは官房長官等が、外国の首脳の会談だとか国会における所信表明演説だとか内外に向けた談話などにおいて繰り返しおわびと反省を述べておるわけでございますけれども、このことは全く謝罪に値しないというようなことをおっしゃっておるんじゃないかと思いますけれども、その辺はいかがでございますか。
○吉川春子君 まず、速やかという点で言えば、是非この国会でこの法案を成立させていただきたいということです。
 それから、いかなる形で、どのような場でという点でございますが、名誉回復の措置として、政府が責任を認めて、心からなる謝罪を私たちは行うということをこの法案に決めておりますが、方法としては、政府による意思表明及び被害者への謝罪の手紙、国会決議などを行います。また、国費による補償、そのための予算措置を行います。従軍慰安婦被害者の名誉回復に資するために、被害者に気持ちが伝わるように、再びこのような行為を行わないことを長く人々の心にとどめるような記録、そして記念館の設置などを行うことも考えております。
 また、今、森田委員が、今まで何遍も謝ってきたではないかと、こういうお話でございますけれども、被害者の皆さんあるいは被害国の政府等は、日本政府が公式に謝罪をしていないことを厳しくこれまでも批判しています。軍の関与を認めた以上、国家として公式に謝罪するのは当然です。
 まず、政府は官房長官談話を発表して謝罪したと言っておりますけれども、九三年の河野官房長官談話は、いわゆる慰安婦とされた方々におわびと反省の気持ちを申し上げるとしているのみで、その後も個々の被害者へ直接謝罪はいたしておりません。また、総理のおわびの手紙、アジア女性基金を受け取った方に付けているおわびの手紙ですが、これは償い金を受け入れた人に対してのみ渡されており、また受け取った被害者からも必ずしも謝罪とは認められておらず、中にはアジア女性基金にその手紙を返したという人もいます。また、オランダの元慰安婦は、オランダの首相あての謝罪の手紙をコピーしたもの、それを、七十八人ですか、受け取った方に渡されているにすぎません。また、国会も、下関判決で立法不作為責任を問われましたけれども、いまだに謝罪をしておりません。
 こうして元慰安婦に対する謝罪は大変不十分なので、国としてきちんと謝罪をしておくことが必要ということをこの法案に書き込みました。
○森田次夫君 戦争賠償等は、いわゆるサンフランシスコ平和条約十四条の(b)項、又は二国間等で解決済みだというのが我が国の一貫した姿勢であるわけでございますね。すなわち、国際法上もまた外交上も我が国としては誠実に対応してきたということでございます。賠償等につきましても、当時の価格で約一兆三百六十億円ですか、そのぐらいの当時としての補償も行っておるわけでございます。そうしたことで、新たに国家として個人補償を行うことができないということで女性のためのアジア平和基金で償うということになったわけでございますが、この償い金についての評価、どのように評価をされておられるか、各会派ごとに代表の方、ひとつお述べをいただきたいと思います。
○吉川春子君 まず、私の方から提案者の共通認識と共産党の立場を申し上げます。
 政府は、道義的な責任を果たすとして、一九九五年七月に民間団体である女性のためのアジア平和基金、アジア女性基金を設立して、総理大臣のおわびの手紙と国民の募金による償い金の支給で事態を収拾しようとしてきました。しかし、この取組は国家補償に代わるものではありません。国連等も指摘するように、被害者に対する謝罪、名誉回復にはならないと私たちは考えます。韓国、台湾の被害者などからも、女性のためのアジア平和基金の事業は日本政府の責任が明確ではないと非難され、受取を拒否されています。
 韓国、台湾に対するアジア女性基金償い金事業は五月一日で打ち切られました。七月二十日には償い事業の資金である国民のカンパを集めることを打ち切るという広告を私は新聞で拝見しました。その結果、最終的に償い金を受け取った元慰安婦は二百八十五人とのことですが、国別の受取人数は一貫して公表していません。報道によると、五月一日時点では二百三十五人で、フィリピンの元慰安婦が最も多い人数とされています。NGOの調査で、韓国の元慰安婦の申請者は二百五人、そのうち償い金を受け取った人は十数人程度とされていますけれども、五月時点では人数がもう少し増えていたかもしれません。
 いずれにしても、韓国の慰安婦問題はアジア女性基金では解決が付きませんでした。最近も韓国の被害者が述べているように、謝罪なくお金を受け取ったらお金で性を売ったことになるといって受取を拒否しているからです。
 また、インドネシアでは、アジア女性基金は老人ホームを五十か所建設しておりますが、これは従軍慰安婦被害者を対象とした事業ではありません。インドネシアでは元慰安婦の認定が行われていないからです。イスラムの国で元慰安婦として名のり出ることは到底できなかったのです。しかし、九〇年代に政権が替わり、NGOの運動も発展し、インドネシア政府も被害者個人個人に対する補償を要求する態度に変わっているというのが、今年の二月、この提案者でインドネシア調査をした結果得た結論です。
 もとより、アジア女性基金は国家補償に代わるものではなく、戦時性的被害者問題の解決には立法により日本政府の責任とその謝罪を行うということが必要だと、こういう立場で私たちは法案を提出しました。
 以上のように、アジア女性基金についてはそういう評価でございます。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 今、共産党の吉川さんが伝えてくださったとおりなんですが、当時、村山政権ということもありまして、改めて社民党の態度を付け加えます。
 戦後補償に消極的な勢力が依然立法府の多数派を占めている状況であえて基金を作ったのは、被害者が高齢化し、残された時間が少なくなるのを見るに見かねての妥協の産物だったと社民党では評価します。
 政府は、軍が関与した慰安婦制度に対する国家責任をあいまいにしたまま、基金からの償い金の支給を国家補償に代えようとしました。しかし、この妥協の産物は被害者の多くから拒否され、残念ながら期待された役割を果たすことができませんでした。
 したがって、基金の事業とは別に、慰安婦問題解決のための新規立法が必要であるというのが現時点での社民党としての基金への考え方です。
 以上です。
○委員長(佐藤泰介君) 民主党・新緑風会はいいですか。
○委員以外の議員(円より子君) 先ほど吉川議員から述べたとおりでございます。
○森田次夫君 今、田嶋発議者から、社民党としては妥協の産物だと、こういうような御答弁がございましたけれども、このアジア女性基金は、おっしゃるように村山内閣時代、自社さきがけの与党の三党合意事項でこの基金というのが設立されておるわけでございますね。
 そこで、当時の社会党、現在社民党でございますけれども、今日はおられないんですけれども、発議者の中で千葉先生と大脇先生は当時社会党の議員であったわけですよね。ちょっとおられないので、本人に聞きたいわけですけれども、もし本人おられなければ田嶋先生にお聞きしたいわけですけれども、そういったことで、いわゆる妥協の産物とかどうのこうのということよりも、三党合意として私は受け入れたと、こういうふうに思うわけでございますけれども、その辺、主義主張の連続性といいますか、政治家としての信義について、できれば御本人に聞きたかったんですけれども、御本人二人ともいらっしゃらないものですから、大変申し訳ございませんけれども、田嶋先生の方、このことについてどのようにお考えか、お聞かせください。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 困りましたね。ですけれども、私個人としては、当時社会党の一員ではありませんでしたので当時のことに関してお答えすることはできませんが、私個人としての見方を申し上げますと、まず、被害者の意識もこの基金ができたことで更に深まって、分析が深まりました。それと同時に世の中も、女性の人権というものに対して、女性に対する性暴力が犯罪だという認識が深まってきました。時代の流れに従っていろんなことが深まってまいります。そして、被害者はまだ生きておられます。そして、謝罪と補償を求めておられます。私たちは、より真実に近い考え方に沿った政治的な解決が必要だと思います。
 これが私の考えです。
○森田次夫君 できれば、お二方、どちらかから御答弁をいただきたかったんですけれども、田嶋先生、関係のないのに御答弁いただきまして、ありがとうございました。
 次に質問移りますけれども、軍の性暴力に対して国として謝罪し補償を行った例というのはあるのかどうなのか。あるとすれば、だれといいますか、どこの国といいますか、どのような形で行われたのか、その辺、ひとつお聞かせをください。
○吉川春子君 まず明らかなことは、慰安婦制度は、国家が直接計画し、実行し、維持した戦時性暴力で、そのような例はほかに近年ほとんどないということです。世界的非難の的となった旧ユーゴの女性に対する暴力も、国家自身が性暴力の制度を作ったのではなく、民族浄化政策の中で軍や民兵が性暴力を犯したのであって、それを防止できなかった責任が問われているのです。したがって、国家が謝罪し補償責任を問われる例がほとんどなかったと私は承知をしております。
 従軍慰安婦問題は、東京裁判判決でも問題にされずに来たように、女性の性暴力が犯罪であり、女性の人権侵害であることが世界的に認められるようになったのは比較的最近のことです。田嶋議員が今おっしゃったとおりです。
 国際刑事裁判所規程には、(a)に、強姦、強制妊娠その他の性暴力を含むジェノサイドの定義におけるジェンダーの観点という規定があります。ほかにもいろいろありますが、旧ユーゴの内戦で何万人という女性が民族浄化の下で強姦され、世界に衝撃を与えました。コソボでの集団殺害や人道の罪に問われているミロシェビッチ元大統領の法廷での責任追及が注目を集めています。従軍慰安婦問題が世界的にいまだに非難が高まっているのは、こうした歴史認識の発展があると思います。
 一昨年東京で開かれた女性戦犯法廷で、従軍慰安婦制度は、国際的な法律家、国際法学者により有罪判決が下されました。過去において軍隊の性的犯罪が不問に付されたことは、歴史として私たちが乗り越えなくてはならない問題だと思います。今回の法案は、こうした歴史の発展に伴って提案されたものであるということを申し上げたいと思います。
○森田次夫君 時間も大分迫ってきておりますので、政府参考人の方にちょっとお尋ねしますけれども、参議院の予算委員会でございますけれども、これは一九九七年三月十二日でございますけれども、当時の小山孝雄議員が、強制連行を直接示す資料はあるのかとの質問に対しまして、当時の内閣の外政審議室長は、政府の発見した資料の中に軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接示す記述は見いだせなかったと、小山議員に対しましてこの委員会だけでもって四回同じような答弁をいたしております。その後、新しくそういった、何というんですか、いわゆる強制連行を直接示す資料、そういったことは見つかったのかどうか、その辺、参考人の方からひとつ御答弁を願いたいと思います。
○政府参考人(新田秀樹君) お答え申し上げます。
 ただいま先生御指摘のとおり、平成九年の三月十二日の参議院予算委員会におきまして、当時の平林内閣外政審議室長の方から、政府の発見した資料の中に軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接示すような記述は見いだせなかったという旨を答弁しております。これは、平成五年八月に公表されました調査に係る資料についてのものでございます。
 その後、調査結果公表以降、関連の文書資料が幾つか関係省庁によって発見されておりますけれども、それらの中にも、軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接示すような記述というのは特に見いだされておりません。したがいまして、そうした記述が見いだせないという調査結果公表時の状況は、現在までも変化はないものというふうに認識しております。
○森田次夫君 そういう資料というのはないと、見いだせないと、こういうことでございますね。
 次に、発議者にまたお伺いするわけですけれども、第二条の二項で日本人の慰安婦はこの法案の対象外になっておりますけれども、その対象外にした理由はどういうことなのか、お尋ねをいたします。
○岡崎トミ子君 この法案は、国際的に問題となっております従軍慰安婦問題について、解決促進のために基本的な枠組みを定めて、具体的な措置を関係国の政府等と協議を行った上で、その理解と協力の下に措置を講ずるものでありまして、対象者を、当時の表現で言いますと外地人、また外国人に限っております。
 従軍慰安婦問題は、沈黙を強いられてきました被害国の女性たちが、多くの困難とそして苦悩を抱えたまま、勇気を持って名誉の回復を求めて訴え出たために国際的な注目を集めるに至りました。そこで、加害国の責任として、戦争の、そして女性に対する暴力の被害者として筆舌に尽くし難い心身の苦痛に今も苦しんでいる高齢の彼女たちの訴えに対して一刻も早くこたえるためにその必要があると考えまして、関係国政府等の理解と協力の下に名誉と尊厳を回復することを目的としたこの法案を提出したわけでございまして、いわゆる言い方としては、当時、内地人慰安婦という表現でありましたが、この内地人慰安婦についても、戦争と女性に対する暴力の被害の問題として真剣に受け止めるべきだと考えています。
 しかし、国としての対応を考える場合には、これは他国との交渉を必要としません。ですから、国内問題でございますから、必ずしも本法案のような枠組みによっての取組というのは必要ないというふうに考えます。したがって、内地人慰安婦への取組を行う場合には、この法案とは別に対応を講じる必要があるというふうに思っております。
○森田次夫君 最後の質問になりますけれども、これは通告してございませんけれども、ちょっと触れたとは思うんですけれども、通告する際に。
 これは三党共同提案ということになっておりますね。その中で、共産党と社民党は全員賛成の中に含まれておるわけですけれども、民主党の中では載っていない方もおられるわけですけれども、その辺、民主党としてこれはもう全会一致なのかどうなのか、全会一致で三党共同提案したのかどうなのか、そういったことにつきまして、ちょっと、民主党の岡崎さんですか、どなたでも結構ですから御答弁をいただきたいと思います。
 これで最後にいたします。
○岡崎トミ子君 今日は、この委員会が始まります前に私どもの鳩山由紀夫党首が傍聴におりまして、時間の許す限りここの委員会を拝聴したいということでおりました。
 党全体として集会などが開かれましたり、あるいは被害者の方が国会においでになりましたときにも、必ず鳩山代表は、党として、これは総意によってこの戦時性的強制被害者解決促進法案を成立するために努力をしていくということを表明をいたしておりまして、確かに賛同者の中に名前の書いていない方もいらっしゃいますけれども、その後の努力で、そうした皆さんたちも、総意としてこれを提出するというような状況になっていると私は思っております。
○森田次夫君 終わります。
○川橋幸子君 民主党・新緑風会の川橋幸子でございます。
 さて、いわゆる従軍慰安婦問題、戦時性的強制被害者問題が社会問題化したのは、一九九〇年の六月、参議院予算委員会で本岡昭次議員、現副議長でございますが、が政府に実態調査を迫ったことに端を発しております。あれから十二年がたっているわけでございます。元いわゆる慰安婦の方々は十二年、年を取られた。慰安婦の汚名を着せられたままで生涯を終えようとしていると、こういう現在状態にあるわけでございます。
 今回、三党の共同提案でもってこの法案が提出されたわけでございますが、かつても三党案の提案が二〇〇一年の三月に行われたことがございます。そのときは審議未了、廃案ということでございましたが、今回は、今日この場で初めて審議入りをすることができました。提案者の皆様方の御熱意はもとよりのこと、委員長始め与野党の理事の方々の御苦労に私は感謝したいと思います。
 しかし、しかしながら、この問題の担当大臣である内閣官房長官がどのような理由でいらっしゃったのか本日この場にはいらっしゃいません。そういうところに私は遺憾の意をまず最初に表した上で質問に入らせていただきたいと思います。
 まず、提案者にお伺いいたします。
 総論的な話になりますが、ここでもう一度戦時性的強制被害者問題とはどういう問題であったのか、ここで総括して認識をお述べいただきたいと思います。
○委員以外の議員(円より子君) 皆さん御存じのように、一九三一年の九月に柳条溝事件が起こりまして、満州事変となるんですけれども、ちょうどそのころから一九四五年の敗戦までの今次の大戦及びそれに至る一連の事変等にかかわる時期におきまして、未成年を含むアジア等の女性たちが日本の軍や官憲などの甘言また強圧等により本人の意思に反して集められました。そして、日本軍の慰安所等で将兵の性奴隷的苦役を強要されたわけですが、これは日本の旧陸海軍の関与の下で組織的かつ継続的な性的行為が強制されたということになります。これによりまして、これらの女性の名誉と尊厳が著しく害され、心身ともに深く傷付けられた問題、このように私どもは認識しております。
 そして、今、川橋委員がおっしゃいましたように、被害を受けた女性たちはもう既に亡くなられた方も多く、その苦しみは半世紀を超え、二十一世紀を迎えた今日も続き、大変高齢になっていらっしゃる方がいらっしゃるわけです。
 そして、この問題はアジア近隣諸国の人々が依然として我が国に対して根強い不信感や不安感を抱いている原因の一つでありまして、国際的にもこの問題の早期解決が要請されているものと思われます。
 また、一九九八年四月に山口地裁下関支部での判決では、いわゆるこの慰安婦制度は、二十世紀半ばの文明水準に照らしても極めて反人道的かつ醜悪な行為であり、日本国憲法の根本原理を侵す根源的人権問題と厳しく認定されておりまして、国と国会の立法不作為行為を指摘されております。
 我が国の責任におきまして謝罪の意を表し、それらの女性の名誉等の回復に資するためにその措置を講ずることが喫緊の課題となっておりまして、この問題の解決の促進を図ることが関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成及び我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することと私どもは認識しております。
○川橋幸子君 今、総括していただいたとおりの問題なわけでございますね。そこで、今日は、対政府質問はそれぞれ外務副大臣と内閣官房の参事官ということのようでございますが、政府に対して質問をいたします。
 七月の十九日、二十日、この二日間にわたりまして、全国紙上、アジア女性基金の募金活動の終了が広告されておりました。これは一体いかなる理由によるものでしょうか、お答えください。
○副大臣(杉浦正健君) お答え申し上げます。
 そのような広告がなされたのはそのとおりでございますが、それは、フィリピン、韓国、台湾、三か国におきまして進められておりました事業対象者の認定事業が最終的な申請受付を終了したという事態を受けて行ったものでございます。
 事業に要する基金、これは民間の善意の方々、国民の多くの方々の御賛同を得て拠出された金額、総額五億九千万円でございますが、これら三か国における事業に要する費用にほぼ達すると。若干不足額が生じますが、それは基金の取り崩し等で賄えるという見通しが生じたことに伴いまして、募金活動を終了するという広告をしたものでございます。
 政府といたしましては、国民の多くの方々の御賛同と御協力を得まして、多大の協力をいただいてまいったことに感謝しておる次第でございます。
○川橋幸子君 というふうに政府はお答えになりますけれども、私は、実態はそうではない、アジア女性基金の枠組みが破綻に瀕しているのではないかと、このような認識を持っております。
 例えば、寄附金というのは当初は集まるものでございます。しかし、最近では、閣議で大臣からも寄附を、寄附というのは任意なんだろうとは思いますが、かなり大臣の職責に対する言わば強制的な寄附を閣議でお決めになられたようでございますが、寄附金額というのは最近集まらなくなっているのではないですか。この寄附の年額というのはどのように集められておられたか、その実績を、アジア女性基金、民間の団体でございますけれども、それを所管する外務省としてお答えください。
○副大臣(杉浦正健君) これは、財団法人女性のためのアジア平和国民基金において募金活動を行っているわけでございまして、詳しくはそちらの方にお伺いしてみないと分かりませんが、平成七年、八年で約四億強の募金が寄せられたと。その後、今日に至るまで続けられまして、総額五億九千万円の基金が得られたというふうに伺っております。
 ただ、年を経るに従って少なくなってはおるんですが、それは事業、認定事業というのは各国それぞれなさっておられまして、例えばフィリピン、韓国は、これは事実上政府がなさっておられます。台湾は財団法人、NGOが認定事業をなさっておるわけですが、そちらの方の認定事業の状況を伺いまして、この程度の基金で十分だという判断で募金を打ち切ることになったというふうに伺っておるところでございます。
○川橋幸子君 政府の関与でできたアジア女性基金ですよね。純然たる民間の団体といっても、このアジア女性基金に対する私は政府の責任は大きいのではないかと思っております。聞いてみなければ分からないというのは、いかにも私は無責任な感じがいたします。
 募金が集まらなくなったということのほかに、私はやはり根本的には、本来受け取っていただけるはずの対象者の方々から受取拒否があったり、あるいは関係国からの批判があったり、あるいは訴訟が起こったり、結局民間の基金、私も元社会党でございましたので先ほどの森田委員の質問はよく分かるわけでございますけれども、当時、何もないところで、せめて道義的責任に応じて、道義的責任を国民の募金によって始めようと。私は、苦肉の策の妥協の産物だと思いましたけれども、何もないよりは良いと言うと表現が適切でないかも分かりませんけれども、関係当事者が大変苦しみながら、妥協して、これでやったら喜んでもらえるかと、こういうことでアジア女性基金はやってきたわけでございます。関係者の苦労は大変大きかったと思いますが、結局は民間の基金の限界というものがはっきりしたということではないのでしょうか。
 法的責任、道義的責任、このような法律上の問題をぎりぎり求めることもございますけれども、今回のこの議員立法は、とにかく国の責任において謝罪をする、そして金銭の支給等をする、それから総合的にこうした戦後処理の問題を、施策をしっかりと樹立して推進していくと、これが今回の議員立法の提案の大きな枠組みでございますけれども、やはりここで何もしないのではなくて、アジア女性基金が立ち行かなくなったからこれで終わりというわけではなくて、むしろはっきり立法化の必要があるという、立法化の必要性を今回のアジア女性基金の実績は示しているのではないでしょうか。
○委員長(佐藤泰介君) どなたにお尋ねですか。
○川橋幸子君 政府に聞いています。
○副大臣(杉浦正健君) アジア女性基金、いわゆる女性基金は政府の認可によって成立した財団法人でございまして、政府としても河野官房長官談話、繰り返しませんが、に基づいてその事業費に対する補助金とか、あるいは医療、福祉等についての予算等も計上いたしまして、できる限りの協力をしてまいったわけでございます。
 今後につきましても、この基金は、これから御相談してまいりますが、まだ残っている仕事もございますし、これから活動をお続けになられることになると思いますが、よく御相談をしてできるだけの協力はいたしてまいる考えでございます。
○川橋幸子君 アジア女性基金のミッション、使命は、償いの気持ちを表す、償いの事業を行う、これがミッションだったんです。それが私はうまくいかない、こういう実績と言うと変ですね、事実を踏まえて私は議員立法が提案されていると、このように理解しているといいますか、提案者の方ではっきりした言葉で、これから何問かお伺いしていきたいと思いますが、提案者の方々の熱意も分かりますけれども、私も時間が限られておりますので、できれば簡潔にお答えいただきたいと思います。ということで、以下、提案者に対してお伺いさせていただきます。
 戦時性的強制被害者問題に対する政府の対応、道義的責任から国民から集めたお金で償い事業をやると、こういう枠組みだったわけでございますけれども、どのように考えておりますでしょうか。特に、アジア女性基金、関係者は苦労したはずでございます。この事業というものをどのようにしたら、この議員提案の方に発展させたら良いとお考えでしょうか。まず、お伺いします。
○吉川春子君 アジア女性基金の評価について、先ほど森田議員の質問でもお答えしましたが、ダブらないように簡潔にまず申し上げたいと思うんですけれども、政府は、サンフランシスコ条約や二国間条約で解決済みということで、自らの法的な責任を認めておらず、謝罪も名誉回復も行わないと、こういう姿勢ですので、こういう姿勢に対して私たちはこれを是とすることはできません。
 被害者が求めたのは、国家の責任を明らかにした謝罪と補償でした。こういう中で、政府が、女性のためのアジア平和基金を設立して、総理のおわびの手紙と国民の募金による償い金の事態で収拾しようとしましたけれども、この取組は国家補償に代わるものではなかったわけです。そして、先ほど申し上げましたように、韓国やインドネシアや台湾、そういうところでも受取を拒否されたり慰安婦に届かないという、こういうアジア女性基金の事業であったわけです。
 それで、こうしたこの問題の解決が図られずに今日各国の強い批判を受けているわけですけれども、善意でアジア女性基金に参加協力した人々の願いは実現しない結果となっております。
 私たちは、七月二十日の新聞広告で募金が打ち切られたということは、やっぱり破綻をしたと、もう償い切れない、アジア女性基金イコール政府なんですけれども、政府がこの道義的責任を果たす事業から撤退したのだと思います。
 かくなる上はと申しますか、やっぱり法的な枠組みを作ってこの責任を果たすという道に進まない限り、国際世論、一番は慰安婦被害者の皆さんでございますけれども、こういう方々の納得は得られないだろうと、そういう方向に進むべきであると、法的枠組みを作るという方向に進むべきだと考えています。
○川橋幸子君 もう少し、そうですね、簡単な単純な聞き方をさせていただきたいと思います。
 私も、法的枠組みを作る、国の責任というこの一点を明白にすることによって、アジア女性基金が本来ねらった償い事業というものは生きてくると思います。
 法案が成立した場合は、アジア女性基金との関係はどうなるのでしょうか。
○吉川春子君 本法律案は、元慰安婦の皆さんの名誉回復等の措置を国の責任において行おうとするものであり、民間から資金を集めて元慰安婦の方に償い金を支払うアジア女性平和基金とは全く異なるものです。
 アジア女性基金は、こういう国民からのカンパ、そしてODAの政府資金による医療・福祉事業を実施しています。しかし、韓国政府は元慰安婦被害者に三百万円の支援金を支給し、台湾当局も被害者に約二百万の立替えの形で支給しています。これは、日本のアジア女性基金からの支払金を受け取らないための措置です。
 ですから、こういうアジア女性基金との関係というのは私たちはないわけでございまして、まして七月二十日に国民のカンパも打ち切られましたので、法案が成立した場合に、関係というものは全くないということです。
○川橋幸子君 もう少し分かりやすい質問をしなければいけなかったと少し反省しております。
 質問の順番を変えまして、それでは実際に既にアジア女性基金から償い金を受け取った人には、この本法の措置としては金銭の支給はどのようになるのでしょうか。
○吉川春子君 アジア女性基金の償い金は全額国民のカンパによるものであり、政府の補償とは性格は違いますが、既にアジア女性基金の償い金を受給した被害者については、本法による補償金との二重の受給にならないように調整するものといたします。
 また、アジア女性基金の福祉支援事業は、政府のODA予算などから支出されているので、これもダブっては支給しないということにいたします。これは不当利得を生じないようにするための措置です。
 いずれにいたしましても、この法案で促進会議を設置することにしておりますので、具体的にはこの中で検討することになります。
○川橋幸子君 私の個人的な受け止め方ですが、要するにアジア女性基金というのは、国の責任というものをあいまいなままにして、国民からの募金を支給することによって償いと称したわけですね。アジア女性基金の方々も、本当に被害者の方々の心に寄り添って、年老いていき、生涯心と体の傷にさいなまれている人たちに寄り添おうとした努力は私はあったと思います。
 先ほど実績と申し上げましたが、実績というよりも、私は一つの経験、これではうまくいかない、やっぱり破綻したんだと、というふうに私は受け取っておりまして、これを新たな法的な枠組みの下に国の責任を明確化し、あるいは計画を作り、促進会議を作るという、そういう法的、制度的な枠組みの中で明瞭にすることによってすっきりすると、そういうこの議員立法の提案であると理解しております。うなずいておられますので、言葉は違ってもそのように理解して大丈夫でございますね。はい。
 それでは、ひとつ、先ほど、もう森田委員の方から関係国の意見というものは出てまいりましたけれども、日本の政府の対応に対する国際機関からも様々な意見が表明されていると思いますが、その国際機関の方の動きをお答えください。
○吉川春子君 まず、国連人権委員会は、日本政府に対してクマラスワミ特別報告者のその報告を是認しました。これは従軍慰安婦への個人補償を行うというものです。続いて、マクドゥーガル特別報告者は、それに加えて、実行行為者の訴追と後世に受け継ぐための教育等を求める意見をかなり詳細に求め、これも是認しております。また、ILO専門家会議は、従軍慰安婦を強制労働と認定いたしまして、日本政府に補償を行うように繰り返し、私の知っている限りでは四回ぐらいその勧告を行っております。聞くところによりますと、来年のILOの全体会議で議題になる可能性があるということです。
 いずれにしても、サンフランシスコ条約や二国間条約で解決済みという日本政府の態度は国際的には是認されておりません。
○川橋幸子君 よく分かりました。国家間の問題と国家と個人の問題はまた別。私は、ウィーンの人権会議が開催されて以来、やはり人権問題についての世界の潮流は成熟しつつある、そのように考えるわけでございます。
 今回、そうしたことを、関係国の反応、あるいは被害に遭われた方々のお気持ち、そしてそうした国際機関からの日本政府への意見等々の問題を踏まえてこの法律案ができていると思いますが、この法律案については、そうした被害者の方々の御理解や関係国の理解、あるいは国際機関、国連機関からの批判にこれは十分こたえ得るものとお考えでしょうか。
○吉川春子君 はい、十分こたえられると考えております。
 この法案が被害者あるいは関係諸国から熱い期待と支持を受けています。まず、理由は次のとおりなんですが、裁判を行ってもすべての事案が今敗訴しています。従軍慰安婦関係の裁判はすべて敗訴しております。法律がない限り、補償も謝罪もないために、一日も早く法律を作ってほしいと被害者の方から待たれています。
 また、本岡参議院議員は、韓国、台湾、中国、フィリピンの被害者、NGOの意見も聞いて民主党案を作成されまして、それを受け継ぐ形で今度三党案が作られておりますので、法律成立について関係者の期待は大きいわけです。
 また、慰安婦、被害者の方がいろんな国から何回も来日されておりまして、ここにおります法案提案者も度々法案の御説明を申し上げておりまして、その中でも一日も早く成立させてほしいという声を受けております。
 また、インドネシアにこの二月に調査に行きまして、政府、議会、被害者団体、法律家にお目にかかり、以下のような直接意見を伺いました。
 まず、アジア女性基金の受皿である社会省のルハディ次官は、野党議員の立法活動について全面的な支持を表明されました。
 また、コフィファ前女性大臣は、日本のためにもこれはいい法律であると評価しました。
 アミン・ライス国民会議議長も、高く評価されました。
 また、被害者と兵補協会の皆さんとも親しく懇談いたしましたが、日本の国会議員がこの法律を作ってくれて大変うれしいと、このように評価されております。
○川橋幸子君 様々なグローバリゼーションがありますが、私は、国連の取組を軸といたしまして、女性同士のといいますか、女性の人権、あるいは、女性に限らず、強制連行問題などもあるわけでございますけれども、人権についてのグローバルな取組が進んでいる中で、私はそのように言ってくださる相手国は大変日本にとって好意的な国ではないかと思います。
 ということで、この法律が成立した場合には、日本の外交上の信頼関係、国際社会におきます名誉ある地位というものはこういうことから獲得できるものではないかと、このように考えているところでございます。
 もう一点、法案について伺います。
 法案第九条には、この問題についての取組を国会に報告させ、そして公表すると、こういう条文を持っておりますが、この条文の趣旨、意味合いは重いものかと思いますが、その点について提案者の側の言葉で御説明ください。
○吉川春子君 政府において講じる戦時性的被害者問題の解決を促進するための施策と、政府が行ういまだ判明していない戦時における性的強制の被害の実態調査について、透明性を確保するということです。
 そのチェックを通じて民主的なコントロールを及ぼすことが必要でありますから、基本方針は作りますけれども、それとは別に、毎年、講じた施策及び調査によって判明した事実について国会に報告させるとともに、その概要を国民に対して公表すること、これをこの法案では政府に義務付けております。
○川橋幸子君 この九条は私も大変意味のある法律だと思います。日本という国が過去を直視する、そして人権、平和、あるいは女性の尊厳、命というものの大切さを十分認識している国であるということを私は対外的に示すと同時に、国内にも、国民の理解を得る、国民全体としての合意形成に大きく役立つものだということ。で、この条文は私は重視しているところでございます。
 ということで、提案者の方々に聞いておりますと、私も同じ意見なものですから、多分異なる意見の方々は何か出来レースのように思われるかも分かりません。でも、これは出来レースではないのです。国際的な潮流あるいは日本の、私たちこの問題について、特に提案者を始めとして、従軍慰安婦の方々と直接話し合い、相手国の議会と話し合い、相手国の政府と話し合い、これが解決策だということで出された法律だと思っておりますので、是非御理解を賜りたいと思うわけでございます。
 さて、そこで、もう一度政府の方に伺います。
 このような法律をどう評価するかと、これ、直接質問しても、それは議員の皆さんがお決めになることでしょうと、このようなすげない答えになるんじゃないかと思います。
 私、先ほど、アジア女性基金は関係者の苦労はあったと。その心は、慰安婦の方々の生涯に寄り添って償いたいという、こういう気持ちが大事だと思ったけれども、やっぱり経験則としては破綻したと申し上げました。ほかにも、今の政府の取組では、これで本当に日本が平和を希求する国家であるということが対外的に認められるのかどうか非常に不安なことがございますので、もう一回、政府に対して現状について説明いたします。
 中央省庁再編後、アジア女性基金、これはかつては内閣とそして外務省の共管だったわけですね。しかし、中央省庁再編後、内閣主導と言いながら、細かい話はむしろ、きめ細かく手当てすべき話はむしろ各省段階に私は忘れ去られて下ろされているのではないかというふうに思うわけでございます。
 アジア女性基金の所管庁は外務省単独となっているわけでございますが、しかし、外務省の経験からいっても、アジア女性基金という民間の財団法人だけを担当するのではこの問題は処理し切れない。やはり非常に大きな、戦後処理という大きな問題がある。アジア女性基金に関連する事務の所管というものは、外務省では担当し切れないのではないでしょうか。お答えください。
○政府参考人(新田秀樹君) お答え申し上げます。
 アジア女性基金に関連する事務の所管というお尋ねでございますけれども、御指摘のとおり、中央省庁再編前のアジア女性基金の指導監督というのは総理府と外務省という形になっていたわけでございますが、省庁再編後は、この基金の運営に最も関連が深い省庁ということで、外務省の方の所管ということで、外務省の方が中心となってこの運営等について対応していただいているところでございます。しかしながら、これまでのこの基金発足の経緯を踏まえまして、内閣官房も引き続き密接に協力をしているというところでございます。
 一方、政府関係の調査等につきましては、省庁再編前に引き続きまして内閣官房が中心となって対応するなど、それぞれの部局がその所管に応じまして、このいわゆる従軍慰安婦問題につきましては、関係省庁とも必要に応じよく連絡調整をしつつ対応してきているところというふうに考えております。
○川橋幸子君 ちょっと質問からは外れますが、解説的に私ども民主党の立場を申し上げさせていただきたいと思います。
 民主党の場合は、政治主導を、官僚主導ではない政治主導でもって国政を運営していきたいと、こういう理念を持った政党、特に強く持った政党でございますけれども、そういう意味では、民主党としては、政治家にしか聞かないと、局長も余り質問しない、政治家同士の対話ということでやってきているわけでございますが、きょうは新田参事官、大変頑張っておられて、大臣になったつもりでお答えかも分かりませんけれども、今日は審議に応じていただけるということで、百歩譲って、千歩譲って質問しているところでございます。ということで、是非、新田参事官のお答えは内閣のお答えであると、そのような自負の下でお答え、答弁をお願いしたいと思います。
 さて、今の関連で、過日、七月十六日の当委員会におけます田嶋陽子委員の質問に対しまして、官房長官はこんなふうにお答えになったわけでございます。私も、委員からそういう御指摘がございまして、いろいろ考えておるところでございますけれども、戦後処理という観点からこれを一つのところでまとめた方が考えやすいのではないかと思っておりまして、その辺これから検討させていただきたいと思います。早急に検討して、そして担当部署をしっかりするということができれば、これも一案と思っています。
 これは、前段に、官房長官も、先ほど参事官が言ったように、外政審議室がなくなったことについて内閣としての統一的な対応がなかなか難しくなっているということを率直にお認めになったお答えでございます。言うなれば、内閣において戦後処理問題を取りまとめる組織が必要かと思うので検討したい、こういう旨の官房長官の答弁だったんですね。
 官房長官の答弁がそうであるとすると、もう予算編成時期でございます。早急に検討してと、これも官房長官の言葉そのとおりでございますけれども、内閣としてはそうした組織を設けるべく予算要求すべきではないでしょうか。
○政府参考人(新田秀樹君) 先ほど御答弁申し上げましたとおり、いわゆる従軍慰安婦の問題につきましては、現在でも内閣府の各部局がそれぞれの所管に応じて担当をさせていただいているところでございますが、今、先生の方から御指摘のありましたような担当組織、新たな担当組織の問題につきましては、私どもとしましても、先日の本委員会における福田官房長官の御答弁承っておりますので、その御趣旨を踏まえながら、そうした組織を設けるか否かも含めまして、今後、関係省庁とよく相談してまいりたい、かように考えております。
○川橋幸子君 早急に御検討をお願いしたいと思います。
 さて、アジア女性基金でございますが、先ほど、償い事業、償い金をお渡しする事業、これが終わったというようなことは、むしろミッションが終わったというふうに私は受け取ると、このように申し上げたわけでございます。
 今後についてどう考えておられますかということを伺いたいと思います。もしも女性の性暴力に対する問題について調査研究を行ったり啓発を行うということであれば、男女共同参画会議の所掌事務にぴったりするものではないでしょうか。これはどのようにお考えになりますか。大臣になったつもりでしっかりお答えください。
○政府参考人(新田秀樹君) この基金の所掌ということでございまして、今日、共同参画局の担当来ておりませんけれども、先ほど申し上げましたとおり、この事業につきましては、これまでの経緯を踏まえて、現在、外務省の方でお願いをしているということもございますので、そうした経緯をよく踏まえながら今後考えていく必要があろうかというふうに思っております。
○川橋幸子君 今のようなお答えがあるので、私は官房長官に是非お越しいただきたいと。男女共同参画の担当大臣でいらっしゃって、男女共同参画会議の議長である官房長官なんですね。責任ある答弁を求めたいということはそういう意味だったのです。私ども、この委員会を開くときに、担当の大臣がお見えにならないのはいかがなものかと随分要望させていただいたわけでございますけれども、今のお答えぶりでその辺りの、やっぱりどんなに有能な方でも所掌を越える部分についてはお答えが難しいということを皆さんお分かりいただけたでしょうか。今後については是非こういうことのないようにお願いしたいと思います。
 さて、そうはいっても、償い事業本体についても忘れてはならないことがあるはずでございます。今、国交が正常化していない、外交関係がない北朝鮮の問題でございます。
 慰安婦にさせられた方々というのは朝鮮半島の方々が非常に多かったわけでございますね。そうした北朝鮮との新たな事態というものが予想されているわけでございますけれども、これはどう考えるんでしょうか。むしろ、これを考えるなら、アジア女性基金の償い事業というのは、もっとしっかりしたものとして、国の責任において新しい枠組みをもって推進すると、そういうふうに存続させることが必要なのではないでしょうか。
○副大臣(杉浦正健君) いわゆる北朝鮮はサンフランシスコ条約の当事国ではございません。したがいまして、今、北朝鮮との間では国交正常化交渉、今は中断しておりますけれども、進めている最中でございますので、戦後賠償問題、この問題も含めて、交渉の中で全体として考慮されていくべき問題だというふうに考えております。
○川橋幸子君 結局、私はこのように考えるんです。非常に混乱とあいまいさを残して、アジア女性基金の関係者は非常に苦労してここまでやってきたけれども、その苦労が報われない、そういうままに、そういう努力が無に帰してしまう上にこの償い事業の募金活動を打ち切ると。結局、日本外交の国としての在り方というものは一貫して示されない、そういう対応を露呈してしまうことになるのではないでしょうか。
 そこでお伺いいたします。最後の質問でございます。また同僚議員が後で聞くと思いますけれども、少なくとも今回の議員立法が提案しておりますのは、問題解決促進会議、そうした会議の枠組みを内閣府に設けてほしいということでございます。様々な問題があるわけです。関係国からの非難もあり、これから北朝鮮との問題もあり、あるいは国連機関、国際機関からの指摘もあり、そういう問題を、受皿がなくなってしまうということに、なくなってもうしまっているんでしょうかね、中央省庁再編に伴いまして。
 そうした日本のマシーナリー、世界から見たら、内閣府のあそこに話をすればこの問題は検討が進むと、そういうナショナルマシーナリーといいますかフォーカルポイントといいますか、そういうことがあることを示すことが日本としては一番重要ではないかと思いますが、今申し上げましたような趣旨で、少なくとも今回議員立法が提案しているような問題解決促進会議、これを内閣府に設けるということについての、この議員立法がどうこうじゃなくて、こうした枠組みの作り方についての内閣府の方の判断を、評価をお聞かせください。
○政府参考人(新田秀樹君) いわゆるこうした受皿の問題につきましてでございますが、中央省庁再編後も基本的には内閣外政審議室の業務というものは内閣官房の外政担当副長官補の方で引き続き担当しているところでございますけれども、今、先生の御質問にありましたようないわゆる対応、組織の問題につきましては、これも先ほどの答弁の繰り返しになって恐縮でございますけれども、先日七月十六日の本委員会における官房長官の答弁の御趣旨なども踏まえながら、こうした組織を設けるか否かも含めまして、今後私どもといたしましては関係府省庁とよく相談してまいりたいと、かように考えております。
○川橋幸子君 終わります。
○岡崎トミ子君 民主党・新緑風会の岡崎トミ子でございます。
 まず、委員長に申し上げたいと思いますが、自民党の理事にも申し上げたいと思いますが、これ真剣に法案を審議している態度なんでしょうか。たったお一人じゃないですか、理事以外に。もっと真剣にやっていただきたいというふうに思います。確かに国会の会期末で大変お忙しいということはよく分かりますけれども、その点をお願いしておきたいというふうに思います。
 私たちは、今回の法案審議に当たりましては、是非、慰安婦とさせられた被害者の方々に参考人としてこの内閣委員会においでいただきまして、実際に体験したことを直接お聞きしたいというふうに訴えてまいりました。これは、御本人たちの発言にこそ真実があると私たち提案者自身が実感してきたからでございます。政府の調査でもヒアリングが行われて様々な事実が明らかになったはずですが、その内容のほとんどは明らかにされておりません。その内容のほとんどが明らかになっていないだけではなく、本当に直接被害者の方たちからお話を伺った、学んだことがどう生かされるのかということについても大変疑問を持ちます。
 そこで、私たちは、こうして被害者の方においでいただく、この場でその話を共有して、議事録にもきちんと残したいと思いました。また、多くの被害者たちの中には、自分たちの苦しい不当な過去を自らの胸の内だけに収めて、自分を更に傷付けてこられました。困難に直面しながら訴えを始めた皆さんの思いを正面から受け止めることが国会の義務だという強い思いもございます。そして何より、御本人たちの言葉を聞かずに議論することは大変申し訳ないと私自身は思います。
 この委員会の開催に向けましては、真剣な議論を重ねてくださいました。いろんな意見の違いを乗り越えて今日の質疑が実現できたということは心から感謝をしたいと思います。
 ところが、被害者の皆さんを参考人にしてお招きして直接お話を伺いたいということの願いは実現しませんでした。これは直接実現しそうだというところまで行ったと思っています。それが結局は実現しなかったこと。私自身、それから提案者、みんながショックを受けました。本当に残念でした。
 そこで、今日は、この法案審議を是非聞いていただきたいという思いで、被害者のお一人、在日の被害者で唯一裁判を闘い、今最高裁に上告中の宋神道さんに宮城県からおいでいただきました。ありがとうございます。
 宋さんには、事前に心情を語っていただきました。その話は、この十年間、裁判を支えてこられた方に聞き書きをしていただきました。それをここで読ませていただきます。
 私は今年満八十歳になります。だまされて慰安所に連れていかれたのは十六歳のときです。まだ何も分からない、ままごと遊びをしているような子供でした。
 何も分からないまま、性病の検査台に乗せられたときには、恥ずかしいやら、恐ろしいやら、痛いやら。検査器は入らないし、あんまり暴れたので、軍医もお尻をぴしゃりとはたいて下ろしてくれました。
 泣いて、泣いて、そっち逃げたり、こっち逃げたり。隠れていたら捕まって、髪結び付けて殴ったり、足でけったり。暗い部屋に縛り付けて、飯も食べさせない。そうして死ぬ前に保護して、今日から兵隊さんの言うことを黙って聞くんだぞと、こう言います。そう言われても、その時間になると、やっぱり嫌だから、また同じことの繰り返し。涙ばかり流して。
 逃げようとしても帰る道も分かりません。最初は泣いてばかりいましたが、軍人の言うとおりにしなければ帳場に、担当している者に殴られる。軍人には刀で脅される。命が惜しくて、死ぬのだけは嫌でした。だから軍人の言うことを聞ぐしかねがったんです。日本語も必死に覚えて、はたかれないように、殺されないように、一生懸命やったんです。
 明日は死ぬという覚悟で戦やっている気の荒い軍人ばかり相手にしてたから、私の気性もすっかり荒くなりました。毎日、毎日びんた取られて、ほっぺたにたこが寄って、今じゃ何ぼたたかれても痛くありません。鼓膜が破れて、耳も片一方しか聞こえません。慰安所で彫られた入れ墨が恥ずかしくて、風呂にも行けません。それでも、生きてこられただけ何ぼかましかもしれません。
 隣の慰安所では、クレゾールを飲んで死んだおなごもいました。病気のとき相手をするのを断ったら軍人に殺されたおなごもいます。空襲で死んだおなごも、兵隊さんと心中したおなごもいました。一緒に死んだって、兵隊さんは自分の国に骨が帰るけど、朝鮮のおなごは死んでも自分の国には帰れません。ただそこで穴掘って埋めるだけです。あんな地獄のような慰安所で死んで、ただ穴掘って埋められておしまい、死んでも国に帰ることもできない朝鮮のおなごたちは本当にかわいそうでした。
 けれど、生き残った方が幸せだったのか、戦地で死んだ方が良かったのか。戦争が終わって日本に来てから、海に入って死のうと思ったことが、一度や二度じゃありません。汽車から飛び降りたこともあります。
 若い頃は毎日、毎日、兵隊の夢を見ました。うんうんうなされて、びっしょり汗かいて、金沢幸一に起こされました。慰安所のことは、何年経っても、幾ら忘れようとしても、忘れることはできません。ぐしゃぐしゃして、荒れて、大酒飲んで暴れたこともありました。大酒飲んで暴れても、悔しい気持ちが晴れるわけじゃなし、ますます腹が立つだけなのに、ばかなことをしたと今では思います。でも、そのときはそうしねえでえられねがったんです。
 なして日本の戦に、まだ訳も分からない朝鮮の子供が連れていかれて、あんな苦労をしなければならなかったのか。考えても、考えても、意味が取れません。だから悔しい気持ちが出るんです。
 年を取ってから敬老の日に近所の年寄りには座布団が配られるけんど、私には届きません。何年も同じ町内に暮らしていても、こんなところまで差別付けられてます。近所には軍人恩給をもらって大威張りで暮らしている人もいます。遺族年金をもらっている人もいます。戦地に引っ張っていくときは、お国のため、お国のためと言っておいて、今になって、なして朝鮮人だの慰安婦だの生活保護だのと差別を付けられるのか。全く意味の取れないことばかりです。
 だから裁判に訴えました。なんじょのものだか、意味を知りたかったんです。なして私が慰安婦にされたのか、なして差別を付けられるのか、その意味をはっきりさせたかったんです。そして、近所で白い目で見られないようにしてほしかったんです。
 裁判を始めたら、生活保護受けて人の税金で食ってるくせに、何の文句があって裁判するのか、日本の国に住んでいるのに日本人ばかり悪者にするな、文句があるなら韓国に帰れなどと言われました。
 国民基金をもらえばいいんだと言う人も近所にはいますが、意味の取れない金をもらうわけにはいきません。民間人の金を集めてくれるといっても、また白い目で見られるだけです。
 最初に裁判に訴えたときの首相は宮澤さんでした。今の小泉さんでもう八人目です。首相がころころ入れ替わり立ち替わり替わっても、民間人の金を集める話以外は何も出てこない。国会で何か話が出るかと思って、いつもテレビで国会中継を見てます。でも、近ごろじゃちっとも話も出ねえじゃないですか。恥を忍んで、針のむしろに立つ思いで訴えたのに、十年もの間ほん投げられてきました。きちんと謝罪して、申し訳なかったと、意味の取れる補償をしてくれなければ、また恥をかくだけです。
 二十年ほど前に金沢幸一が亡くなってからは、ずっと独りで暮らしてきました。日本には肉親は一人もおりません。風邪でも引いて寝ていると、このまま独りで死ぬんじゃないかと思い、恐ろしく、情けなくなります。近所の人たちには家族もおり、子供も孫もいるのに、私は独りです。戦地で日本の軍人の子を二人産みましたが、慰安所では育てられずに他人に預けました。どうにも仕方がなかったとはいえ、親が子供を捨てるような罪作りなことをして罰が当たったんだと涙が出てきます。中国から親捜しの子供が日本に来ると、一人一人顔を確かめて見るが、分かりません。せめて子供でもいてくれれば、こんなに肩身の狭い思いをしなくて済んだのではないかと思えてならねえんです。
 裁判を始める前は恥ずかしくてだれにも慰安所のことは話せませんでした。でも、裁判を始めてから、本当にたくさんの人の前で体験を話しました。信用してもらえるかどうか心配でしたが、みんな心から聞いてくれました。中には、私が慰安所に連れていかれたちょうど同じ年ごろの子供もいました。こんな子供に意味が取れるのかと心配で心配で恥ずかしくて話したくなかった、逃げ出したかったけんど、仕方がない、話をしたら、こんな子供でもちゃんと意味を取って、涙を流しながら聞いてくれました。半分は気持ちが晴れました。安心しました。
 人の心の一寸先はやみです。慰安所で七年、日本に来てから五十年以上、人の心が信じられずに生きてきました。疑うことしか知りませんでした。でも、裁判かけて体験を話してから、少しは人間らしくなれたと思っています。
 私は十六の年から日本人の中で暮らしてきました。日本人と気持ちよく付き合いたいと願い、そう努めてきました。私はあと何年生きられるか分かりません。けれど、日本に住む朝鮮人の子供と日本の子供たちが仲よくするためにも、過去の過ちは過ちとしてきちんと反省して、申し訳なかったと謝罪してほしいです。
 世間では、慰安婦は民間業者が連れ歩いたと陰口を言う人もいます。戦地のことは、戦争に行った者でなければ分かりません。戦争がどんなに残酷なものか。民間業者がそんなことできるはずがありません。
 あんな残酷な戦争は二度と繰り返してはいかぬのです。慰安婦ばかりでなく、中国の人も、日本の兵隊も、苦しめられた惨めな姿を、私はこの眼で見てきました。なのに、日本政府は再びあの残酷な戦争を始めようとしているように見えます。過去を反省しないから、戦争の恐ろしさを知らないから、そんなことを考えるんです。私の話を聞いて涙を流してくれた子供たちが、あんな残酷な戦に引っ張られていくことがあったらと思うと、近ごろはまんじりともできません。ほんと、幾らも寝られねえんです。
 慰安婦問題を子供たちの時代にまで持ち越さないように、子供たちを二度と残酷な戦争に巻き込まないように、再び戦争するための法律ではなく、過去の問題をきちんと解決する法律を作ってください。そうでないと死んでも死に切れません。よろしく頼みます。
 二〇〇二年七月二十三日、宋神道。
 宋さんにはこのように話していただきました。それを書いていただいたものを読ませていただきましたが、杉浦副大臣がおいでくださっておりますのでお聞きしたいと思いますが、わずか十六歳の少女が日々性交を強要されて、しかもそれが七年間にもわたり継続した。人間形成に重要な時期に、到底正面からまともに受け止めることができないむごい現実を宋さんはどうすることもできませんでした。ただ、逃れようのない現実として生き抜くほかにすべを持たなかったと思います。
 宋さんは、戦後一九四六年春ごろに日本に来ました。安定的な職業を得られず、山に行って木を取ってそれを売り歩いたり、子守をしたり、魚の加工工場に雇われたりして、その日その日の生活費にも事欠く地をはうような生活をしてきたと言っております。死んでも死に切れないという言葉で結んでいた宋さんの心情、悲しみや苦しみ、怒りを理解するには、このような戦後どのように生活をしてきたというこの状況も無視することはできないと思います。
 地裁判決では、軍人によって少女が日々強姦される慰安所というものを国家が組織的に計画し管理したという非常に恥ずべき行為があったことを認め、宋さん個人の証言が事実に相違ないという点についても全面的に認めました。また、東京高裁では、被害事実を認めた上で、当時日本が批准、加入していた強制労働条約、醜業条約に違反した行為があり、国際法上の国家責任が発生したと、国際法違反を初認定しています。
 さらに、民法上の責任に、意思に反して日常的に長期に強制的売春を強いられてきたことについて、国は慰安所経営者とともに監督者として不法行為責任を負う余地があったと、宋さんに損害賠償請求権が生じた可能性を認めています。しかし、在日韓国人の国への賠償請求権は日韓請求権協定が発効しました一九六五年から二十年が経過した一九八五年に消滅したと述べて、控訴棄却となりました。
 当時も今も国際社会においておぞましい破廉恥極まりない行為を許すことはできません。国は非常に恥ずべき行為をしたと判決が認めたことを日本政府はよく考えるべきだと思います。
 杉浦副大臣、御高齢の宋さんに対して、宋さんのこれまでの人生を思って、そして国として少しでも報いたいとお思いになりませんか。まずお答えいただきたいと思います。誠実なお答えを私は求めます。
○副大臣(杉浦正健君) 宋さんのお話を副大臣としてどう思うかというお尋ねでございますが、副大臣である前に一人の人間でございます。一人の人間として今の宋さんのお話を伺っておりまして、胸のふさがる思いがいたしました。同時にまた、人間であると同時に一人の日本人でございます。日本人として誠に申し訳ないという気持ちで一杯でございました。
○岡崎トミ子君 この法案は議員立法でございます。立法府で解決をしなければならないとこの法案を考えたわけでございます。国家として歴史的な事実を踏まえて政治的に解決をしなければならないときだ、その政治的に解決するときだと思いますが、いかがでしょうか。
○副大臣(杉浦正健君) 国家と国家の間の関係というのは国際法で規律されるわけですけれども、裁判所の判断もございましたが、国内法等で規律されるわけですが、私は、詳細には承知しておりませんし、先生からお伺いした範囲でしか知りませんのですが、サンフランシスコ平和条約の中に、十四条でございましたか、戦後賠償並びに財産についての定めがございます。そこで、十四条の冒頭に「日本国は、戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支払うべき」とあります。韓国との間で同種の協定も結ばれておりまして、ちょっと私、金額は存じておりませんが、戦後、賠償しております。国家としての責任を負ったわけでございます。そして、その一番最後に、この条約に別段の定めがある場合を除き、連合国は、韓国が入りますが、すべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民が取った行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権等を放棄すると、こう定めております。
 したがいまして、それは韓国との間でも同様の取決めがなされておるところでございまして、宋さんの場合、個人の請求権であるわけですけれども、この条項に従いまして韓国との賠償が行われたことによって解決済みというのが政府の考え方でございます。
 それは、法的にはそうであるといたしまして、もう先生方御案内のとおり、この問題が起こりましてから政府としても調査をいたしました。そして、平成五年八月四日ですが、当時の河野官房長官から談話が発せられまして、その談話の重要部分を御紹介いたしますと、「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」という談話が発せられたわけでございます。
 この政府の談話に基づきまして、先ほどから話題になっております財団法人女性のためのアジア平和国民基金を設立することとし、政府としても事業費の補助あるいは医療・保健活動、医療・福祉支援事業等に支援を行い、また、国民の皆様方に、政府としては法的には解決済みであるという立場以外取れませんので、広く国民の方々に御協力を呼び掛けまして、償い金の募金の事業を進めてまいったわけでございます。
 広範な国民の方々の御協力を得られまして、六億円近い寄附が寄せられ、各国において進められたそれぞれの国における認定事業で認定された方々に対しまして償い金と医療等保健事業がなされ、まだ一部継続中というのが現状でございます。
 政府としては、この問題の解決については、国として解決済みという立場が変えられない以上、このアジア女性基金をもって、の活動を支援してこれらの方々に対する河野官房長官談話に表れた償いの気持ちを表していくのが最も現実的な対処の仕方だというふうに考えてやってまいっておると、こういうふうに承知をいたしております。
○岡崎トミ子君 杉浦副大臣、多分この資料、これまでの経過などをお読みになったのは昨日、今日ではないかなと私は思うんですね。本当にお気の毒だなというふうに思う面もございますけれども、ずっとアフリカに出張していらして、突然に外務副大臣がこれに答えなければいけないという、そういう状況に至ったようでしたけれども、被害者がなぜ謝罪と補償を求めているのかお分かりですか。なぜ被害者にとって謝罪と補償が必要なのか、この意味するところは何かということを副大臣どうお考えになりますか。
○副大臣(杉浦正健君) 宋さんのお話を伺っておりまして、そういうお気持ちに、深く尋ねるのは差し控えた方がよろしいかと思います。
○岡崎トミ子君 名誉回復の措置なんですよ。自分の人間の尊厳、名誉を回復する、名誉回復の措置として当然それは個人補償も付いてくるというものなんです。国家が正式に謝罪をして、おわびをした、その気持ちを持って初めてその補償されるお金も付いてくるというもので、私は宋神道さんとは九年間のお付き合いなんですけれども、お話を伺っていて、お金が欲しいと言ったことは一度もない。本当にしっかり謝ってくれ、時々、金は十円でもいい、そういうふうにおっしゃるんです。でも、私たちの要求としては、多くの方々のお話を伺って、本当に心から国が公式にわびて、そうしたらお金ももらえると。さっきの話にも意味のないお金はもらえないというふうに、こういうふうに言っておりますので、私たちの法案の内容、国家の公式の謝罪、そのことに伴っての補償、そのことによって人間の名誉と尊厳の回復が行われると、そのためのものだということだというふうに私は思っておりますが、宋さんのこの心情の中にも、戦争は二度と繰り返してはならない、そのためにきちっと過ちについて謝罪してほしい、繰り返し繰り返し訴えております。
 九年間のお付き合いの中で、自分のことだけではない、必ず戦争は嫌だ、戦争を起こしちゃなんねえ、テレビ、いつも国会中継を見ていますから、今出てくる法律やなんかについても言いたいことは一杯おありになる。その宋さんの戦争を二度と起こしてはいけないという、こういうことを訴えていることについてはどう受け止められますか。
○副大臣(杉浦正健君) それは痛いほどよく分かりますし、私もそう思っております。
 私は、あの戦争が終わったときは小学校の五年生でした。宋さんのお話を伺っておって、小さいころのあの戦争の様子、ふるさとが空襲で猛火に包まれ、多くの方が亡くなったのを田んぼ越しに見ておりましたが、名古屋の近くだったですけれども、名古屋が空襲になって親族が続々また我が家へ戻ってきました。歴史の教訓ということを言いますけれども、私ども日本人があの戦争に至る歴史から何を学んでこれからの日本の行く道に生かしていくか、これは私もいつも考えておるところであります。二度とあのような戦争の道を歩んではならないというのが戦後日本人が選択した道だと思います。私もその一人として、絶対に戦争への道は歩んではならないと思っている一人であります。
 村山内閣のときに五十周年が参りまして、村山総理が、いろいろ国内に異論はございましたが、談話を発表されました。我が国が遠くない過去の一時期に国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことに対して痛切な反省の意と心からのおわびの気持ちを表明いたしますという談話を発表されました。国内的には異論もございましたが、これは、あの、少なくとも私が小学校五年生のときに終戦の日を迎えた国民のほとんどが感じた実感だと私は思っております。
 小泉総理も、二度と世界の中で孤立の道を歩んではならないということを総理御就任以降再三申しておられますけれども、私はその気持ちを別の言い方で表しておられるんだと思っております。私も子供、孫はまだおりませんが、子供に対して、少なくとも親の目の黒いうちは絶対に戦争には巻き込まれないということはいつも言っておるところであります。宋さんもこの点は御信用いただいていいと私は思います。
○岡崎トミ子君 私たちはその加害国であるということを忘れてはならないということを是非言ってほしかったなというふうに思います。
 いろんな被害を受けた中で、性暴力を受けたその苦しみは本当に計り知れないものだということの中から、絶対駄目だということをこれからも宋さんも言い続けるだろうというふうに思いますが、私たちのこういう思いは各国議会にも通じておりまして、この法案に対しては議会や被害者の支援団体から歓迎、支持の決議、声明がたくさん出されております。
 七月十九日に台湾から二十数名の国会議員の皆さんたちが国会においでになられまして、中華民国立法院の議長、副議長を始めとして三分の二に上る百三十六人の国会議員の要請書、(資料を示す)これは、この日本政府が、いや国会が一日も早くこの元慰安婦の名誉と尊厳の速やかなる回復を希望するというそのことを望む要請書を持っておいでになりまして、これは倉田参議院議長と本岡昭次参議院副議長と参議院内閣委員会の委員長とそれから理事の皆さんあてというふうにここに書いてございます。
 それから、九〇年からこの問題について取り組んでおります韓国挺身隊問題対策協議会の常任代表の金允玉さんも今日は傍聴席においででございますが、解決を求めて韓国からおいでくださっております。
 こうしたことに関して、杉浦副大臣はどのようにお考えになりますでしょうか。
○副大臣(杉浦正健君) 国会は国権の最高機関でございますから、国会において様々な論議が尽くされることは、それは結構なことだと思います。また、いろんな各国等から御意見がある、これもあってしかるべきだと思います。
○岡崎トミ子君 受け止め方の問題だと思いますけれども、それぞれがそう思うことは当然だろうというような客観的な考え方ではなく、それをしっかりと受け止めるというその受け止め方が私はとても大事なのではないかなというふうに思うんです。
 ちょうど私は、三月二十日の内閣委員会でも、福田官房長官が、今までのことですべていいんだというふうに考えてはいけない、考えるべきではない、このように答弁しておりますが、杉浦副大臣はいかがですか。
○副大臣(杉浦正健君) 政府としては、この問題については女性基金の活動を支援するということが最も現実的で適切な方法であると考えておるところでございます。まだこれからいろいろ基金の方と御相談しながら、いろんな方の御意見を伺いながら対応していきたいと、こう思っておる次第でございます。
○岡崎トミ子君 終わります。
○吉岡吉典君 日本共産党の吉岡です。
 最初に、この戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案を提案された提案者の皆さんと今日こういう審議ができるように御努力いただいた方々にお礼と敬意を表したいと思います。
 私は最初に杉浦副大臣に対して質問をさせていただきます。
 杉浦大臣は、今、村山談話を引用しながら、日本は一時国策を誤ったという御発言がありましたが、私は、戦後も例えば戦後処理問題で政府が取った態度というのはやはり国策を誤ってきた、その結果が、今、日本はあの戦争の反省もしない国だと、こういう批判を国際的に受けている理由ではないかと思います。
 私は、若干自分の体験も含めて、政府が取ってきた態度について質問したいと思うんですが、ちょうど十年前の一九九二年、いわゆる慰安婦問題が日本で大きな問題になったその時期、ある東南アジアの若い女性記者がやってきてインタビュー受けたことをいつも思い出します。その若い女性のインタビューはこういうことを私に鋭く迫ってきました。戦後半世紀近くなって初めて従軍慰安婦問題が日本では問題になった、日本の戦後というのは一体何だったのかと、こういう質問でありました。
 それから十年たって、今なおこの慰安婦問題は解決せず、日本に対する国際的な批判のトーンは上がるばかりです。この問題の解決は、私は、今提案されている、立法府として努力しようとしている立法解決しかないという結論に到達しておりますけれども、行政府としても一体この問題の解決のためにどういう努力を行っていくかということがお伺いしたい点であります。
 行政府がこれまで取ってきた態度というのは、私が知る限りは、初期には、長い間政府は無関係ということでした。私は、一九九〇年の六月一日の内閣委員会で、当時問題になっていた朝鮮人強制連行の名簿の提出を韓国政府から求められていた、それに関連して質問する中で、求められた名簿だけでなく、日本が行ってきたいわゆる慰安婦の問題、また関東大震災の虐殺を始め日本が行った一連の誤りについて、相手から言われるまでもなく、日本の側から自主的に調査し、謝罪もするべきではないかと、こういうことを質問いたしました。
 そのときに、私は、元閣僚であった荒舩清十郎氏が、日韓交渉の最中、日韓条約が成立直前の時期に、朝鮮の慰安婦が十四万二千人死んでいる、日本の軍人が殺してしまったのだと、こういう講演を行っていることも紹介して政府に答弁を求めました。当時の政府の答弁は、言われたことをやるだけだ、名簿だけしか求められていない、そういうことでした。私は、相手から言われなくても、日本が行った過去の誤りをきちっと清算していく態度を当時から取っておれば、今日の事態はもっと違ったものになっただろうと思います。
 しかし、その後、この問題は日本政府自身も日本軍の関与を認めざるを得なくなりました。そして、先ほど来紹介される談話、官房長官談話が発表されて、日本の一定の謝罪も表明するに至りました。私は、正直なところを言って、これで解決の道が開けるんじゃないかと期待しましたけれども、それは非常に甘い期待でした。
 私は、当時、政府の関係者から政府部内で三つの方策が今検討されているということを聞きました。それは、一つは行政府の責任で解決する方法、二つ目は内閣提出の法案、いわゆる閣法によって立法解決する方法、第三には議員立法による解決の方法、この三つが検討されたということを聞きました。これは、やはり解決済みでは済まないことを日本政府自身が認めざるを得なくなって検討をしたことだと思います。
 そして、結論付けられたのがアジア女性基金だったということだと私は思います。しかし、それでは、これまで明らかにされてきたように、解決しないで今日に至りました。解決しないだけか、個人への償いは打ち切られる、そういう事態になった。
 この時点で、私は、立法府は今こういう議員提案を行って立法府の意思によってこれを解決しようとしていますけれども、行政府としても改めてどうしたらこの問題が解決できるかということを真剣に考えていただくべきときではないかと思います。かつて三つの方策を検討したそのときの検討に次ぐ根本的、抜本的な検討をしていただきたいと思います。
 大臣、そういう検討は少なくともやっていただけるかどうか、答弁をお願いします。
○副大臣(杉浦正健君) 非常に吉岡先生、この問題に長くお取り組みいただいたお立場でのお尋ねでございます。
 私は副大臣でございまして、責任を持って検討するというふうにお答えできる立場ではございませんが、先生のここでの御意見は大臣にお伝え申し上げます。
 日本政府の立場は、再三申し上げているとおり、本問題は法的には解決済みであるという立場で、先生御指摘のとおり、アジア女性基金によって解決を図るという方向で今まで努力してまいったわけでございます。広範な国民の方々、各界各層の方々の御協力を得まして、理解と協力を得ながらここまでやってまいったわけでございます。おわびの気持ちも償いのお金と同時に歴代の総理大臣からそれらの方々、認定を受けられた方々に差し上げておりますし、まだそれによってすべての方々に御理解が得られたとは言えませんですけれども、事業の対象となった方々からは感謝の気持ちも寄せられていることも伺っておるわけでございます。
 私ども政府としても、この女性基金の事業、これで終わるわけじゃございませんので、よく御相談しながら、これで終わったというふうには思っておりませんので、何ができるかということは考えてまいりたいと思っております。吉岡先生からいろいろお知恵をいただければ前向きに考えていきたいと、こう思っております。
○吉岡吉典君 今の答弁で、私、ここでこれ以上突っ込んで論議しようと思いません、法案についての質問がありますから。ただ、一言言わせていただきたいと思いますのは、一人の人間としては胸がふさがる思いだ、こう言いながら、政府の態度としては解決済みだという答弁をしなくちゃいかぬというのは、どちらかが間違っているわけです。間違っているのは、解決済みだと言わなくちゃいけない、人間の気持ちが共鳴できないのが日本政府の今の解決済み論だと私は思います。
 それから、その解決済み論についても、私、副大臣に一言検討の際念頭に置いていただきたいと思うのは、解決済みだということイコール日本政府が自発的意思によって償いをやることを妨げるものではないと。それはやっちゃならないということではなく、日本政府が法的義務ではなくても日本政府が自発的にやることは妨げるものではないという答弁を外務委員会で政府からいただいております。そのことも併せて御検討をお願いしたいと思います。では、次に進ませていただきます。副大臣、どうも。
 本法案に即しての質問でございますが、私は、最初に、この問題、いわゆる慰安婦問題と言われていた問題がどんな性格を持つ出来事であったかということは繰り返し私どもが出発点として考えていかなければならない問題だと思います。
 例えば、この問題では被害者のたくさんの血の叫びをつづった出版物もあります。私は、一、二年前のことですが、フィリピンの議会での審議の際、こういう発言があったということも大変重視いたしました。それは、この問題の被害者に関してですけれども、多くの女性が命より大事なものを失った、それは彼女らの人間の尊厳であると、こういう論議が行われていることを聞き、そうだと思いました。
 私が従軍慰安婦問題の存在を初めて知ったのは一九六四年でした。当時、私は新聞赤旗の記者として朝鮮人の強制連行問題を取材して歩く中で従軍慰安婦問題の存在を知り、大変驚いて取材を続けていたら、ある朝鮮人の人々らからやめてくれと言われました。そのやめてくれという言葉は、あなた方は我が同胞を従軍慰安婦にして辱め、今度はそれを暴いて辱めようというのかと、こういう言葉でした。
 今、宋さんのお話もお伺いいたしましたけれども、この問題というのは本当は人に向かって話することさえできない、親兄弟にも話せなかった、こういう訴えも私は何人かの方からも聞きました。そういうことを戦時日本がやったんだということ、そのことを私どもはこの問題を考える出発点にしなければならないと思います。それだけに、この問題を解決済みだなどと言って済ますわけには絶対にいかないと思っております。
 そこで、私は、まず提案者に、この解決済み論というのをどう考えておられるかお伺いしたいと思います。
○委員以外の議員(千葉景子君) 今、吉岡議員から御指摘がありまして、私たちも本当に思いを同じくするものでございます。それだけに、先ほど杉浦副大臣からも度重ねて解決済みというようなお話もございましたけれども、私たちは、到底そのようなことでこの問題が解決されるものでもなく、また、多くの国際的な社会からも信頼されるものではないというふうに考えております。
 政府は、さきの大戦にかかわる賠償並びに財産及び請求権の問題は、サンフランシスコ条約、二国間の平和条約及びその他の関連条約等により、これらの条約等の当事国との間においては法的には解決済みとしておりまして、さきの大戦において筆舌に尽くし難い性奴隷的苦役を強いられ、心身にいやし難い傷を負わされた多くの戦時性的強制被害者の皆さんがその名誉と尊厳の回復を求めておられること、さらには、それが果たされることのないまま次々と亡くなられていっている、こういう事態に対して、全く謝罪も、そして名誉回復の措置も講じようとしておりません。本当にこれを私たちは大変憤りを持って受け止めているところでございます。
 そして、そもそも考えてみれば、政府は従軍慰安婦問題への軍や国の関与は当初認めておりませんでした。NGOの活動や、被害者の皆さんが本当に心からの気持ちを、痛い思いをしながら名のり出られたことによってこの問題が社会的に知られることとなって、そして、やむを得ず軍の関与を認めざるを得なくなって、一九九三年の河野官房長官談話ということになったわけでございます。しかし、軍の関与は認めながら、依然として、その責任が一体どういうものなのかということについては何ら明らかにしていないところでもございます。
 また、国際社会でも、このような従軍慰安婦問題について、国連の人権機関、ILOなどにおいて、もう既にこれは答弁にもございましたので長くは申し上げませんけれども、度々この問題が取り上げられて、やはり被害者個人への謝罪、そして補償、これが必要だということが指摘をされております。日本政府のこれに対する本当に明確な態度を示さないということに対して厳しい指摘がなされているところでもございます。
 また、事実が明らかになるとともに、国内外から厳しい指摘が強まった、こういうことで、政府は、先ほどからのように、一方では解決済み、しかしながら他方では、これもアジア平和基金というものを創設せざるを得ない事態にもなったわけです。この問題については、今もう行き詰まった事態だということになっている状況は先ほど議論がございましたけれども、しかし、少なくとも善意の皆さんの気持ちを集めて何とかしなければいけないということだけは政府もやむを得ずやらざるを得なくなった。
 こういうことの推移を考えてみますと、今、吉岡議員がおっしゃいましたように、少なくとも政府が積極的に自らの考え方に基づいて、解決済みなどと言わずにこの問題に真摯に対応して、そして併せて個人補償や名誉の回復の措置を取ることが必要だというふうに思います。
 私たちは、立法機関として、そのような措置を取るための法案、これを提案をさせていただくことこそが立法機関に属する者の責任であろうと、こういう考えを持ってこの法案を提案をさせていただきました。それによって何とか、解決済みではなくて、真の意味での解決の道を作っていきたいというふうに考えております。
○吉岡吉典君 今、政府の態度が明らかになった時期に、やはりこの問題の根本解決は、この法案を成立させて、国権の最高機関である国会の意思によって当然これの法案が成立すれば、政府もそれに沿って施策を取らざるを得ないことになるわけで、そういう方法で解決するしかないと、私も今の御答弁と同じように思います。
 そこで、法案に沿って二、三具体的な問題を時間の許す範囲内でお伺いしたいと思います。
 第一は、どのような女性が戦時における性的強制により被害を受けたのか、また、戦時性的強制被害者は具体的にどこの国に存在しているのか、お答え願います。
○委員以外の議員(円より子君) 被害者はどのような女性たちであったかという御質問でございますけれども、先生も御案内だと思いますが、我が国は戦前、婦人・児童の売買禁止に関する国際条約というものに加入しておりました。そのために、二十一歳未満の売春経験のない女性というものは派遣することができなかったわけでございまして、当初は日本国内においていわゆる醜業というものに就いていた女性が多く従軍慰安婦として外地へ派遣されておりましたが、大変人が不足したということ、まあ需要の増大というふうに言われますが、そういった観点とまた性病予防の観点から、政府はどういうふうにすればよいかというふうなことを考えた結果、この国際条約には宣言さえすれば植民地には適用しなくてもいいという規定がございまして、この規定を採用して朝鮮、台湾には適用しないと宣言いたしまして、朝鮮と台湾等から二十一歳未満の売春経験のない女性を多数徴集したということがございます。
 それゆえ、この戦時性的強制被害者たちは、旧植民地、占領地に居住していました一般の女性や少女が大半を占めておりまして、彼女らが、よくこういう中傷があるんですが、業として慰安婦をしていたとか、また売春婦であったというような見方がございますが、これは全くの中傷、誤りだと思います。
 そして、現在、日本政府を相手取って訴訟を行っている被害者の方たちも、ほとんどが当時未成年者でございました。この若い女性たちが徴集されるということは様々な証言等から出ておりますけれども、大体十四歳から十八歳の間の女性が大きな割合を占めておりまして、多数の文書資料からの中では、十三歳の初潮前の少女が被害者となっている例も少なからず報告されておりますし、また、そうした少女たちを集めるために学校組織までも活用されたというようなことがクマラスワミ報告にも記されております。
 そして、被害者の数でございますけれども、これは正確に把握することは大変困難ではございますし推計もまちまちなんですが、七万人から二十万人というふうに言われておりまして、一九九三年に発表されました政府調査の結果報告「いわゆる従軍慰安婦問題について」におきましても、「慰安婦総数を確定するのは困難である。」としながらも、「数多くの慰安婦が存在したものと認められる。」と報告されております。特に朝鮮半島の女性の占める割合が大きく、当時被害を受けた女性全体の八割を占めたという推計もございます。
 また、二番目の、具体的にどの国に存在しているかという御質問でございますが、名のり出ている女性たちの出身国・地域は、確認されているものでは、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、オランダのほか、マレーシア、タイ、カンボジア、東チモールなど多岐にわたっております。また、他に慰安所があったとされる地域は、タイ、ビルマ、サイパン、グアム、パプアニューギニアなども含まれておりまして、現地の女性たちが被害に遭ったことも想定しなくてはならないと考えられます。
 これらの女性たちが、戦後、それぞれの経緯を経ましてアメリカ、カナダ、オーストラリアといろいろな国に行っているんですけれども、そこも、本法案が対象とする戦時性的強制被害者が存在するのはそうしたところも少なくありませんし、この法案が被害者としますのは、彼女たちの出身国である、今次大戦における日本の植民地や占領地であった国々や、オランダ、そしてアメリカ、カナダ、オーストラリアを始めとする彼女たちの移住先の国々も含めております。この問題は地理的に大変広がりを持つ問題だと思われます。
○吉岡吉典君 「旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、」というのは具体的にどういうことをこの法案では意味しているか、お伺いします。
○岡崎トミ子君 お尋ねの「旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、」としましたのは、慰安所の設置、管理、慰安婦の輸送等に関する旧陸海軍の関与をできる限り広くとらえようとしたものでございます。
 旧陸海軍による直接の関与の例としましては、旧陸海軍が直接慰安所を経営したような場合でありまして、場所としては、インド洋のアンダマン諸島、香港、海南島の海軍慰安所、フィリピン・ミンダナオ島の慰安所が軍によって直接経営されましたことが利用内規などの当時の資料やあるいは戦記などによって明らかになっております。
 間接の関与の例は、民間業者が経営している慰安所に旧陸海軍が開設許可を与えた場合、管理に当たって旧陸海軍が慰安所規定を定めましたり、軍医を派遣して慰安婦の性病等の検査を行ったりしたような場合でございます。
 証拠が明らかな例としまして、今、今日ここにお持ちいたしましたのは、(資料を示す)これが防衛庁を始めとして出てきた資料、ここにあと六つぐらいこう重なるんですが、重いから持ってきませんでした。二つだったんですね。
 そして、これが陸海軍の、例えば、一九三八年というふうにありますが、三月四日に陸軍省の副官通牒として出されました「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」と、ここなっております。この文書の内容がございまして、これは陸軍省が北シナ方面軍と中シナ派遣軍に対して徴集業務を統制して、業者の選定をより適切に行うように指示した文書でございます。徴集の際に、業者と地元の警察と官憲との連携を密接にするようにという、そういう命令がここに書かれてございます。
 それからもう一つは、民間業者でありますけれども、ここに持ってまいりましたその証拠は、民間業者がかかわったという業者の人たちの渡航の申請でございます。こちらもそのようになっておりまして、危険な地域での移動それから輸送、これは軍の許可なしに、協力なしにできるものではありませんでした。業者が船舶で女性たちを輸送する際にも許可を与えたりしたこと、さらには、軍の船舶や車両によって戦地に運ばれたことが少なくなかったことを一九九三年八月四日の政府報告、「いわゆる従軍慰安婦問題について」でも明確にしてございますけれども。
 ここに持ってきているこれ、(資料を示す)この中にはちょっと文書がありましたが、ボルネオに台湾人慰安婦五十名を送りたいので、台湾軍の憲兵が選定した業者三名の渡航許可を得たいと、これは台湾軍の司令官が求めています、東条英機陸軍大臣に申請した電報でございます。ここで重要なことは、南方総軍が管轄地域への慰安婦の配置をしていること、それから台湾軍の憲兵隊が慰安業者の選定をしていること、業者と慰安婦の渡航に関して台湾軍が取り仕切りまして、陸軍省が許可を与えていること、これは単なる関与という程度のものではなくて、陸軍総ぐるみで従軍慰安婦の手配をしていることにあります。文中、大変驚きましたのは、「慰安土人」というふうにここに表現されておりまして、大変びっくりしました。大変差別的な言葉でございまして、これは慰安婦にされた台湾の少数民族の女性をそう呼んだのではなかろうかというふうに記述されているものがこれでございました。
 このように、明白な証拠というものがございます。
○吉岡吉典君 この委員会で先ほど軍が強制連行した資料があるかないかということが論議になり、新しい資料がないということもありました。私は、そんな資料というのは、元来、よほどのへまをやって残したもの以外はないのが普通だと思います。戦後、戦争責任の証拠になるものは大掛かりな全国的な焼却作業をやったわけですからね。私はその点では、防衛研究所にあんな膨大な資料があったということにむしろ驚いているわけです。
 同時に、今の答弁で、連れてきたかどうかということだけでなく、多面的に軍の運営全般をこの法案では陸海軍の関与というふうに言っているんだということもよく分かりました。
 ちょっと時間の関係で進めさせていただきますけれども、具体的な措置を講ずる場合に戦時性的強制被害者であることの認定はどう行うかということと併せて、その認定の際に新たな人権侵害が起こらないように配慮することがこれまた大変重要なことだろうと。これは、この事件の性格からいって、そのことの配慮が非常に重要だと思います。その点についてはどのようにお考えになっていますか。
○委員以外の議員(千葉景子君) おっしゃるとおりに、認定については本当に慎重に行われなければいけないというふうに思います。
 あらかじめ具体的な方法を想定していろいろなケースに一律に適用するということは適当ではないというふうに考えております。関係各国において被害の実態やその把握の状況がまちまちでもございますし、また、現在当事者が置かれている状況もそれぞれ異なる、こういうことから考えて、適切な認定ができるように政府が責任を持って各国や当事者あるいはNGOの皆さん等との協議を重ねて、最終的には当事国の判断で決定、運用されるべきではないかというふうに考えております。
 いずれの場合においても、吉岡議員が指摘されておりますように、認定によって新たな人権侵害が発生するようなことは最大限の努力をもって避けなければなりません。
 本法案は第六条で、政府が、第三条に規定する措置、すなわち謝罪の意を表し及び名誉等の回復に資するための措置を実施するに当たって、被害者の意向に留意するとともに、その人権に十分配慮することを定めております。何よりもまずは日本が解決のために真摯かつ積極的な姿勢を見せることが被害者に対する偏見やあるいは中傷などを取り除く最大のやはり道ではないかというふうに思います。
 新たな人権侵害が防止されますように、当事国政府が認定方法の決定、実際の認定に当たって、当事者、NGO等と十分協議すること、また広報などに力を入れることなどを当事国政府に求める具体的な申入れを行うよう政府に求めていきたいというふうに思います。特に、プライバシーの尊重は当然で、被害者側のあくまで自発的な申請によってまずは措置が講じられるようにしていくべきであろうというふうに考えているところでございます。
○吉岡吉典君 時間が近づいてきましたので、これは感想的なちょっと質問になりますけれども、私は、今までの一連の答弁、またこの法案全体を読んでみての感想を言いますと、これは与党対野党という対立を反映したものでもなければ、政治的な主張あるいはイデオロギー的な主張ということは全くどこにもないものであって、従軍慰安婦問題を解決しようと思えば、解決済みでもうその要なしと言えば別ですけれども、解決しようという立場に立てば、これは与党の皆さんもだれも賛成できる法案の努力が行われているんだなと、そう取りましたけれども、そう取っていいのかどうか、これどなたかお答えをお願いします。
○委員以外の議員(円より子君) 吉岡委員の御指摘のとおりだと私ども思っておりまして、本当に今日の審議、こういうことができたのを感謝しておりますが、遅過ぎたと思っておりまして、もう多くのNGOの方々、また被害の当事者の方々、そして様々な方々が何とかこれは女性の尊厳の回復のために、そして日本が名誉ある地位を外交の上で、国際社会の上で占めるためにも、そして私たちの子供たちやまた孫たちやその後の人たちが堂々と胸を張って、日本の負の遺産を受け継いだ後、しっかりと国際社会の中で対等なパートナーシップを持ち、友好関係を築いていくためにも、これはどうしても与野党を超えて皆さんが熱意を持って取り組んでいける、そして賛成していただける法案だと信じております。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 今、平和の問題からという視点もありますけれども、もう一つ、女性の人権という視点から申しますと、与野党を超えて、この問題は全世界に存在します。男性がいるところ、必ずと言っていいほど女性差別は存在しています。
 インドネシアでも分かったことは、これはイスラムの世界のおきてがあるから女性は言い出しにくいという話でしたが、日本でもイスラムのおきてはなくても女性たちは言い出しにくい状況があります。韓国でもそうでした。台湾でもそうでした。いろんな運動があって、女性の人権に対する成熟した考え方が出てきて初めて、女性たちはそれが自分たちの人権の問題だということを認識しました。
 ですから、これは本当に思想の違いと無関係に、女性の人権として全世界の女性の問題だというふうに理解していただければいいかと思います。
○委員長(佐藤泰介君) 午後一時二十分に再開することとし、休憩いたします。
   午後零時二十一分休憩
     ─────・─────
   午後一時二十六分開会
○委員長(佐藤泰介君) ただいまから内閣委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○島袋宗康君 国会改革連絡会の島袋宗康です。
 まず、発議者の皆さん方が、各党そして会派がこの議員立法にこぎ着けていただいたその努力に対して、大変敬意を表しておきたいというふうに思います。
 それで、お尋ねしたいことは、この戦時性的強制被害者問題というのはどういう問題であるのかというふうなことで、どういう認識に立って提案されているのかということをまず最初に御質問したいと思います。
○委員以外の議員(円より子君) 島袋先生にお答えしたいと存じます。
 午前中から様々な質疑の中でかなりこの問題が明らかになってきたと思いますけれども、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等にかかわる時期におきまして、未成年を含む、これは十四歳又は十三歳以下の初潮前を迎える子供たちも入っておりましたけれども、そのアジアの女性たちが、日本の軍や官憲などの甘言、強圧等により本人の意思に反して集められ、日本軍の慰安所等で将兵に性奴隷的苦役を強要された、つまり、日本の旧陸海軍の関与の下、組織的かつ継続的な性的な行為が強制され、これによりそれらの女性の名誉と尊厳が著しく害され、心身ともに深く傷付けられた問題と認識しております。
 国家間では解決済みだとよく言われますけれども、これはそうであっても国が責任を持って謝罪し賠償することの妨げにはならないにもかかわらず、我が国は残念ながらこの被害を受けた女性たちの苦しみを考えることなく半世紀を超え、今、二十一世紀を迎えた今もそうした責任を取らずに続いている問題でございます。
 また、この問題はアジア近隣諸国の人々が依然として我が国に対して根強い不信感や不安感を抱くその原因の一つともなっておりまして、国際的にもこの問題の早期解決が要請されているところでございます。これは、司法の面でも国会と国の立法不作為が指摘されておりまして、日本国憲法の根本原理を侵す根源的人権問題とまで言われております。
 我が国の責任におきまして謝罪の意を表し、これらの女性の名誉等の回復に資するための措置を講ずることは緊要な課題でございまして、私どもは、この問題の解決の促進を図ることが関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成及び我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することと認識し、この問題を法案といたしました。
○島袋宗康君 今の説明によって、日本国憲法のいわゆる根本的理念を侵す根源的人権問題としておられますね。そういったふうな観点に立てば、当然行政がやらなければ国会の我々が提案をしてやるべきだというふうなことでございますから、私はこれについては全面的に賛同するものであります。
 そういったことを踏まえて、政府側にちょっと御質問したいと思います。
 平成五年八月四日付の内閣官房内閣外政審議室の「いわゆる従軍慰安婦問題について」と題する文書によれば、政府は平成三年十二月より関係資料の調査、関係者から聞き取り調査、米国の公文書の調書、韓国における調査に加え、沖縄においても現地調査を行ったと記述されております。沖縄には、一九九一年十月に七十歳余りで亡くなられた裴奉奇さんという韓国出身の元従軍慰安婦の方が那覇市で生活保護を受けて生活しておられたという事実があります。民間有志の人たちの調査によれば、百二十一か所の慰安所が沖縄に設置されていたとの数字もあります。
 ただいま述べました内閣外政審議室の調査では、どのようなことが判明したのか。慰安所の数や実態、慰安婦の数や戦後の状況等の問題でいわゆる判明した事実について御説明を願いたいと思います。
○政府参考人(新田秀樹君) 平成五年の八月の政府調査の結果の公表に際しまして、今、先生からお話がありましたように、沖縄におきましても、当時の政府の担当者が現地に出張した上で、大戦当時の慰安所や慰安婦の状況について、当時の状況にお詳しい方からの聞き取り調査なども行い、また、今お話にありました慰安所マップ等民間の調査も参考にさせていただいて、そうしたことも含めて総合的に調査結果をまとめさせていただいたわけでございますけれども、慰安所や慰安婦の具体的な数について政府としての確定的な数字というのは見いだすことができなかったということでございます。
 しかしながら、さきの調査におきまして、何人、何か所というようなことは申し上げられませんけれども、沖縄を含む広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したというところが認められたということでございます。
○島袋宗康君 沖縄で、先ほど申し上げたように、韓国の出身である裴奉奇さんが那覇市に住んでおられて、私ども大変気の毒に思いながらも、この方が亡くなった後から追悼法要をしまして、そして弔いをしたというふうなこともございますので、大変この慰安婦の問題については、十二年前ですか、ちょうどこの方が亡くなったのも十一年前ぐらいじゃないかと思います。ですから、非常に関心がありますものですから、是非このことは我々の議員立法として成立させるような方向で努力していかなくちゃいけないんじゃないかというふうなことを思っているわけでございます。
 そこで、政府はアジア女性基金の設立とその事業による対応によっても、なお本問題の最終解決に至っていない理由はどこにあると考えているのか、ちょっとそれをお聞きしてから次の質問に入りたいと思います。
○副大臣(杉浦正健君) 基金の事業につきましては、もう既に御説明申し上げたように、おおむね着実に実施されてまいっております。
 各国政府関係者の御協力もいただき、国内関係者の多くの方々の御協力をいただいて基金も造成されました。中身についての御意見もございますが、償い金、そして医療・保健事業等を行い、各代総理からおわびの手紙も差し上げるというような形で、事業の対象となられた方からは感謝の言葉も寄せられていると聞いておるところでございます。
 先生が最終的な解決というのをどういう趣旨でおっしゃられているか、もし皆様方の心の傷が完全にいえるということであれば、私はこれは、この事実は何十年、何百年と続くものだと思います。政府としても、河野官房長官談話に基づきまして法的な請求権の問題としては解決済みではあるけれども、できる限りの措置を講じようということで基金の事業に協力してまいっておるわけでございまして、今後とも基金と御相談しながらできる限りの努力を続けてまいるつもりでございます。
○島袋宗康君 先ほども同僚議員から質問がありましたけれども、いわゆる台湾における同基金支給のための申請受け付けと実施期間は一九九七年五月二日から二〇〇二年五月一日までで終了したといっております。台湾の中華民国立法院は二〇〇二年七月十五日付の文書で、我が参議院の正副議長と内閣委員長と理事に対して、元慰安婦の名誉と尊厳の速やかなる回復を希望する旨の要請書を送っております。それは本問題がアジア女性基金による対応によってもまだ解決に至っていないというふうな証左であると私は思います。
 政府は、この台湾の中華民国立法院の要請についてどのように考えているのか、また今後どのような対処をするのか、御所見を述べていただきたいと思います。
○副大臣(杉浦正健君) 先生御指摘のような要請が行われる旨の報道は承知しておりますけれども、実際御要請があったとか、その内容については私どもとしては現時点では承知いたしておりません。
 基金の事業については先ほど申し上げたとおりなんですが、御要請があれば、あった時点で検討させていただくということに相なると思います。
○島袋宗康君 これは参議院議員の正副議長、そして委員長並びに理事の皆さん方に送られているわけですから、当然政府としてはそういった情報は入っていなくちゃいけないと思いますけれども、政府にその文書が来ないからといって、それは私は分かりませんじゃ、私はこの国会審議の中では通用しないと思いますよ。いかがですか。
○副大臣(杉浦正健君) 政府の方はちょうだいいたしておりません。
○島袋宗康君 それはちょうだいしておりませんというだけじゃ済まされないと思います。分かっていらっしゃるでしょう。こういった中華民国立法院から文書が送られてきたというのは分かっていらっしゃるでしょう。全く分からないんですか。
○副大臣(杉浦正健君) そういう報道があったことは承知しております。あることは承知しております。
○島袋宗康君 ですから、そういった報道によって、いわゆる分かっていらっしゃるんならば、それに対して政府としてはどう対応するのかということを聞いているわけです。
○副大臣(杉浦正健君) もちろん、いただければ、いただいた後検討はさせていただきます。
 本当に私は聞いておりませんし、事務方に確認しても、正式に政府に対して御連絡はないというふうに申しておりますので、現時点では正式なお話はないというふうに思います。
○島袋宗康君 やっぱり隣国である、少なくとも台湾とはかなり近い関係にあるわけですから、そういういわゆる親密な連携を取っている台湾の立法院からやはり正式な要請があるわけですから、政府としてももっと精査して、どう対応していくかということは、この議員立法の中でそういったことも含めて、やっぱり政府のちゃんとした答えが出せるようにしなければ相手国に対するこれは面目が立たぬと私たちは思っていますから、それは非常に、こういった論議を交わす自体おかしいんであって、やはり正式のそれは参議院議長あてに来たとしても、文書は私は多分回っていると思いますから、それはきちっと政府としてはどういう考えを持っているということは答弁していただかないと今後非常に困ると思いますけれども、もう一遍再度答弁してください。
○副大臣(杉浦正健君) 今、提案者の方からコピーをちょうだいいたしました。
○島袋宗康君 そういうようなことで、台湾から来ておりますけれども、これから韓国もそういった動きは私はあると思っております。したがって、国際社会に名誉ある地位を占めるというふうなこと、憲法でうたわれているんですから、これを解決しないと戦後処理は終わらないわけですよ。そういった戦後処理をいわゆる植民地時代から非常に待っていたと。あるいは戦争責任について何一つ今の政府としては余り責任を負わないような感じのする最近の小泉内閣の姿勢というものはやはり改める必要があるというふうに私は認識しておりますから、もっと真剣に、よその国からまた更にこういった要請が来ないとも限らない、また来るであろうというふうなことを予測するならば、これはきちっとして政府としてどう解決していくか。
 それはアジア女性基金では解決できなかったわけですから、それを上回るような形で政府の責任というのを明確にしていかないと、今後の国際社会に対する責任というものは、私は、日本の国としては非常に将来子や孫たちに大きな、何といいますか、不安を残していくんじゃないかというふうなことさえ思いますから、是非その点は明確にこれから、アジア女性基金では解決できなかった、じゃそれを上回ってどうするかというふうな政府の態度があって初めて私たちは納得できるというふうに思っております。
 これは、これからも戦後処理の問題としてはずっとしてあらゆる国から要請があると思いますから、是非そのことを踏まえていくならば、我々が立法措置するまでもなく、政府としてはきちっと整理する必要があったんじゃないかというふうに思っておるわけでございます。
 そこで、本問題について国が直接の責任を取らないことについて、サンフランシスコ条約等の法的な論拠は持っているのかもしれませんが、道徳的な責任があることを認めているわけだし、また我が国に対する国際的な評価という点からも、外交上のマイナスイメージを背負い続けていかなければならない。この際、潔く本問題の政治的な、ここであえて政治的ということは、何といってもこれは法律的な問題じゃなくして、政治的にどう解決していくかというふうなことが政府に問われているわけですから、その政治的な解決方法というものをやはり政府としては積極的に考えるべきじゃないかというふうに思いますけれども、その政治的な判断というものをもっと我々が理解するような形で説明していただきたいと思います。
○副大臣(杉浦正健君) 何回も御答弁申し上げてきたところですが、サンフランシスコ平和条約に基づく賠償につきましては、日本は非常に経済が困難な中で各国に対して誠実に履行してまいったところでございます。その点は踏まえた上で、法的には解決はしているとはいいながら、いわゆる従軍慰安婦と言われる方々の受けた人権侵害と申しますか、惨害に対応するために、官房長官が発出されました河野官房長官談話を踏まえまして、道義的責任を政府として認めまして、このいわゆる女性基金の設立の協力をし、何回も御説明申し上げたように、事業を進めてまいっておるところでございます。
 私どももこれで終わったというふうには思っておりませんで、今後とも、現実的にこの事業を通じて、基金と御相談しながら対応してまいりたいと考えておるところでございます。
○島袋宗康君 先ほど副大臣は、同僚議員に対して、私は責任ある答弁ができないというような内容の答弁がありましたけれども、大変その点については私どもは不満があります。
 そこで、この法案審議に入る前に、官房長官、是非責任ある答弁をしていただきたいということで委員長を中心として要請してきたわけですけれども、官房長官がお見えにならない点については、じゃ政治的にどう解決していくかということを、実際は官房長官の口から私たちは答弁いただきたかったけれども、先ほども私申し上げましたように、余り責任の所在がはっきりしないという点では非常に不満があるわけですよ。
 だから、どうしてこれを政治的に解決するかということがやはり問われているというふうなことですから、官房長官は今日お見えになっておりませんけれども、我々の不満というものはそういう点もあるわけですから、是非官房長官に我々のこの審議の内容を伝えていただいて、そして政治的にいかに解決するかと、それがこの立法、議員立法する意義があると思いますから、そして近隣諸国に対してやはりちゃんと申し開きができるように、すがすがしい気持ちで子や孫に、大きな日本の国がちゃんとアジア諸国に対しておわびをし、そして責任ある補償をしたというふうなことでないと、これはずっと続くわけですよ。そういった意味で、本来は官房長官が是非出席していただいて、それをお聞きしたかった。
 その点でちょっと不満でありますけれども、もし官房長官に何かお伝えするというお気持ちがあれば、誠意を持って御答弁いただきたいと思います。
○副大臣(杉浦正健君) それはもちろんお伝えは申し上げます。私、先ほど、自分の立場上申し上げる立場にないと申し上げたのは、要するに、国として償い金を支出して、償い金事業を続けることについて、検討する考えはないかという御質問がございましたので、それはお伝えいたします、私は副大臣でございますので、大臣ではございませんので、私からこれを検討すると申し上げる立場にないということを申し上げたわけでございまして、その点はちゃんと大臣にお伝えをして、もうこれは政府、内閣の問題でございますから、ということをわきまえて御答弁申し上げたつもりでございます。
○島袋宗康君 最後に、今の訂正で理解できますから、申し上げましたように、政治的な解決以外ないということを念頭に置きながら、是非皆さんが将来日本国に対する失望感を与えないような政治的配慮をしていただきたいということを強く要望して、時間でありますので、終わります。
○福島瑞穂君 社会民主党の福島瑞穂です。
 今日は、国会の中においてやはり非常に画期的な日であるというふうに考えます。いわゆる従軍慰安婦の問題に関して初めて国会の中でこの問題が審議入りをしました。これにこぎ着けられた発議者の皆さん、そしてこの委員会の皆さんたちに心からきょう今日までの御努力に関して大変感謝したいと思います。
 また、今日はたくさんの人たち、特に宋神道さん、当事者の女性も含めて、国会がこの問題に関してどこまで真摯に取り組むのかということをかたずをのんで見ているという状況です。その意味では、今日が始まりであり、今後これがきちっと継続をして、法律が成立をするように発議者の皆さんとともにみんなで、これはもう先ほどからも出ております、党を超えて超党派で取り組むべき問題なので、一緒に最後まで頑張りたいと思います。
 一九九三年八月四日、河野内閣官房長官談話が出されております。旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したと述べている点も重要ですが、私は教育のことについてまず御質問いたします。
 「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。」と談話は述べております。教育においてこのことはどう実現されたのでしょうか。文部科学省、お願いします。
○政府参考人(矢野重典君) 学校におきます歴史教育は、これは児童生徒が我が国及び世界の歴史に対する理解を深めて、国際社会に生きる、主体的に生きる日本人としての自覚と資質を身に付けることを目指して行われているものでございます。特に、近現代史の教育につきましては、従来から国際理解と国際協調の観点からバランスの取れた指導の充実に努めてまいったところでございます。その中で、さきの大戦に関しましては、学習指導要領に従いまして、大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたこと、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害を与えたことなどを理解させることといたしているところでございます。
 そこで、御指摘のいわゆる従軍慰安婦の問題についてでございますが、これは教科書では高等学校の日本史等において取り上げられているところでございまして、各学校において適切な指導がなされているものというふうに私どもは考えているところでございます。
○福島瑞穂君 きちっとこの問題、この談話で、「このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。」とあります、歴史教育、歴史研究を通じてとあります。文部科学省、今後この問題についてこれまで以上にきちっと取り組んでくださると約束してくださるでしょうか。
○政府参考人(矢野重典君) 今私が申し上げた経緯でございますけれども、私どもは、学習指導要領、また昭和五十七年に端を発しました教科書問題というのがございますけれども、それに基づいて教科書検定基準に近隣諸国条項という新たな条項を設定いたしました。そうしたものに基づきまして教科書の検定を行っているわけでございますので、そういう趣旨を踏まえて、引き続き適切な対応をしてまいりたいと思っております。
○福島瑞穂君 よろしくお願いします。
 慰安婦問題については幾つかの訴訟が提起をされております。私も、一九九一年、金学順さんにソウルでお会いをいたしました。一九九一年八月一日にお会いし、十二月六日、三人の女性が提訴をしました。その後、一九九三年四月五日、今日ここに来てくださっています宋神道さんが東京地方裁判所に裁判を提訴しました。あと、フィリピン、台湾、オランダ、中国、様々な国の様々な女性たちがこの問題について裁判を提訴しています。金学順さんなどは、第一審判決を見ることなく、聞くことなく、この世を去ってしまいました。高齢の人たちが、裁判を起こすことも大変ですが、その長期にわたる裁判にずっと付き合うということも、裁判をやることも非常に大変です。
 私自身は、一九九一年十二月に提訴した裁判と一九九三年の宋神道さんの裁判の代理人をほかの弁護士と一緒にやってきました。本人たちの苦労、思いはもうすさまじいものだというふうに思います。
 下関判決において立法の不作為が認められました。これは毎日毎日、日々、故意、過失、違法性が立法の不作為という形で国会に発生しているのだと、国家賠償請求も認めるほどの中身でした。今日も一日一日と法律ができなければ不作為、違法状態が続くわけですが、この裁判やこの立法不作為について立法者としてどう受け止めていらっしゃるでしょうか。
○岡崎トミ子君 今、裁判のこれまでの歴史などについて、福島瑞穂さん自ら弁護人もなさっていらっしゃいましたので、その歴史について語られましたけれども、この下関判決で初めて立法府としての責任を問われたわけでございまして、私たちは、それぞれが、例えば国連に行った、それから向こうから被害者の方がいらっしゃる、そのたびに国会議員としてそれではきちんと法律を作る点についてはどうなんですかとずっと問われ続けてきたと思うんです。
 でも、その間、実は裁判の方にゆだねていて、十年間裁判は負け続けてきたということがございますので、私たちは、いよいよこの法案が提出できる、その責任を果たすことができる、そういう時期が来ているというふうに思っておりまして、今お話にありました、もう既に亡くなられた方がいらっしゃる、そして御高齢でいらっしゃる方が非常に多いということも含めますと、何としても国会議員の総意によって、殊にこの委員会に付託されているということもございますから、この法案を成立させて、その責任を果たしていきたいと、このように思っております。
○福島瑞穂君 この三条に、謝罪の意を表し、それらの女性の名誉等の回復に資するために必要な措置を取るという旨、書いてあります。発議者として具体的にどのようなものを考えていらっしゃるのでしょうか。
○吉川春子君 まず、被害者の名誉回復がこの問題の焦点です。被害者は、戦争のときに傷付いただけではなくて、その後、商行為だったとか金のためになったとか言われて、今なおトラウマに苦しんでいます。これをいやすために日本政府が取れることは心からの謝罪です。今なおPTSDで、トラウマの後遺症で当時のことを話すと卒倒すると、こういう慰安婦被害者の皆さんの苦しみを思えば、加害者である日本政府がもう十分謝罪した、解決済みだという態度は取れないと思います。端的に申し上げて、私たちは、十分な心からなる謝罪を行うと、それは政府による意思表明、国会決議などです。また、国費による補償、そのための予算措置、また被害者の心が伝わるようにいろいろな記録、記念館の設置などを考えています。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 追加させていただきます。
 私は、この従軍慰安婦の問題は、ハンセン病問題の解決に倣うと解決しやすいかなという一つの案を提案します。
 ハンセン病の問題と似ている点は、被害者が両方とも高齢者だということです。それと、国の判断の誤りがあったということです。先ほども国策の誤りという言葉が出てきました。いずれも、高齢で残された人生に限りがあること、つらい思いを抱えながら人生を過ごしてきて、最期を迎えるまでに何とか日本政府の責任をはっきりさせて謝罪と補償を求めている点です。この人たちは国の判断の誤りのために人生を台なしにされたときに、小泉首相もその人たちを門前払いすることはできませんでした。
 今回の、日本人か外国人か、国内問題か国外問題かの別はありますけれども、国の不作為の責任か戦争責任かの違いもありますけれども、行政にはできなくても政治家にはできることがあるはずだと思います。
○福島瑞穂君 この三条の必要な措置のために、今後この法案を成立した後、必要な措置について一緒に実現をしていきたいというふうに考えます。
 ところで、発議者の方たちは、例えばインドネシアへ調査に行かれるなど、本当に日本国内外を問わずいろんなところに出掛けられて活動を続けてこられました。そこのインドネシアへ調査に行った成果について教えてください。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 今年の二月にインドネシアに行きました。そのときに元従軍慰安婦の人たちにもお会いしました。けれども、そこで五人の政治家や大臣にお会いしました。その中でも二人の政治家にお会いしたときのことをお話しします。
 一人は、ユスリル法務・人権大臣は、慰安婦の存在を認めながらもこう言っていました。インドネシアと日本の経済発展のためには過去のことよりも日本との経済関係の未来のことの方が重要だという発言です。現在もまた経済の発展を重視するがために女性の問題はないがしろにしようとしています。
 けれども、同じ国内でもう一人、アミン・ライス国民協議会議長と懇談した中で、私は次のように申し上げました。日本の政権を握る自民党や企業の人たちは経済関係のことばかりを重視する。経済関係をよくするためには、男性同士でしゃんしゃんと手を打ち合って、被害者である女性の問題はないがしろにされ続けてきている。過去を考えずに未来を考えようということはあり得ない。両者にとって良い未来を作るには、本当は過去の過ちを謝罪してその上に未来ができ上がるのだと。それに対してアミン・ライス議長がこう言いました。田嶋氏の意見には大賛成だ。現在、未来は過去のものとは切り離せないと思っている。過去の問題をきちんと整理すべきことは国の責任である。戦前、戦中、戦後とも女性の存在は男性の陰にあって目に見えない存在、インビジブルなものでした。それをいいことに、男性が男性に及ぼした被害は条約で補償することはあっても、男性が女性に及ぼした被害については自国内で無視され、更に加害国である日本でもまた無視され続けて半世紀が過ぎたわけです。インドネシアの憲法の中に社会正義を全うするという言葉があります。社会正義を全うするためには、まず、ないがしろにされてきた女性の問題、ひいては従軍慰安婦の問題を解決すべきだと考えます。
 また、被害者の女性たちと懇談して、今なお消えることのない一人一人の心と体の傷を感じて、改めて日本はこの問題解決のためには立法することが必要であると感じました。
○福島瑞穂君 いわゆる従軍慰安婦問題の本質をどう考えられるでしょうか。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 戦時下の女性に対する性暴力同様、現在の私たちの日常生活においても性暴力は存在しています。女性差別の究極の形がレイプを始めとする性差別であって、レイプは個人に対する侵略行為につながります。戦時下の性暴力を女性の人権侵害として裁く視点がない限り、現在の私たちの社会でも女性差別や女性に対する暴力が適切に裁かれることはないと思います。裁かれていないがゆえに、男性による構造的な性支配は現在に至るまで綿々と続いています。
 二〇〇一年十二月の第二回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議で出された国連の資料によれば、この過去三十年間で性的搾取を目的にした人間の密輸の被害に遭った女性と子供たちはアジアだけでも三千万人以上になります。慰安婦の問題は、今も形を変えて、場所を変えて、その実態は存在しているということです。しかも、アジアで女の子供を買う男性は日本人が一番多いという残念な報告があります。
 過去の延長線上に現在があります。内閣府に男女共同参画局ができました。女性の人権と尊厳を取り戻す男女共同参画社会を形成するためにも、過去の慰安婦問題の解決に是非政府は政治的な決着を付ける必要があると思います。内閣府では、男女共同参画社会の机と慰安婦問題解決用の机と二つ並べて作業に当たったらいいかと思います。
○福島瑞穂君 いわゆる従軍慰安婦問題は過去の問題ではなく、現在にも続いていること、現に被害者の人が今苦しんでいること、またその問題点が今の問題点でもあること、現在進行形の問題であることを話していただいたと思います。
 ところで、先ほど杉浦副大臣は、二度と戦争を起こしてはいけないのだ、小泉総理もそう思っているという力強い発言をしていただきました。今国会は有事立法が国会に上程をされ、かつこの従軍慰安婦の問題が審議入りをするという、そんな国会となっております。過去にきちっと向き合うことが必要で、過去にきちっと向き合うことなく突き進んでいるために有事立法などの法案が今、国会に上がっているのではないかというふうにも考えます。
 先ほど杉浦副大臣は戦争を二度と起こしてはいけないというふうにおっしゃいました。これは先ほど岡崎さんが宋神道さんの言葉として引用した、宋さんはいつの集会に行っても、どんな集会でも、戦争は絶対にやっちゃなんねえんだと、自分の体験を通してみんなに訴えたいことは、多分その戦争をやっちゃなんねえんだということだと思います。きちっと、将来戦争を、現在戦争を起こしてはいけないということ、それからこの問題にきちっと政治として、国会として向き合うということについて、杉浦副大臣、副大臣でも権限がたくさんおありです、決意をお聞かせください。
○副大臣(杉浦正健君) 政治家にとって基本的な条件は何かと問われれば、私は、一つは歴史という縦軸であり、もう一つは地政学と申しますかジオポリティカルな横軸が大事だ、この軸がしっかりしていないと政治家の資格はないと私は思っております。これは私の政治の恩師からいろいろ学んだことでございます。
 政治にとってもそうだと思います。歴史の上に現在があるわけでございますので、あらゆる角度から過去から学ぶといいますか、これが大事であることは申すまでもないと思います。
 小泉先生がおっしゃっている世界の再び孤児にならないというのは、ジオポリティカルな面で戦前の歴史が国際社会で孤立していったと、そういう結果になっておるわけですが、それを指して日本は国際社会の孤児にならないという意味でおっしゃっているわけで、私は政治家の基本的な軸としてしっかりしたものを持っておられるというふうに思っております。
 二度と戦争を、戦争が起きるかどうか、これはこの国民国家にあっては国民全体の総意、総意と申しますか一種の総和ということがあるわけですが、政治のリーダーシップが大事なことは言うまでもございませんで、私は一人の日本の政治家として日本の歴史、あの戦争に至った過程を絶えず勉強しておりますが、その反省の上に立って、二度とあのようなおぞましい、三河弁で申せばやくたいもない戦争をしてはいかぬと、そのための道を、その方向へ向かっての道を歩まなきゃならないと、いつも自分に言い聞かせている次第でございます。
○福島瑞穂君 いわゆる従軍慰安婦とされた人たちに対して、国会は立法不作為と言われないためにきちっと回答を出すべきであると、これは右左、政党を問わず、国会議員としてきちっと回答を出すべきものであると思います。
 今日は、冒頭申し上げたとおり、国会の中でやはり画期的な日です。従軍慰安婦と言われる問題に関して議員立法の提出があり、それが審議入りをしているわけですから、是非、今後これをこの委員会において継続し、この問題を深め、今、杉浦副大臣がおっしゃったように、きちっと過去の問題に向き合う形できちっと立法の成立を目指すように皆さん方に強くお訴えして、私の質問を終わります。
○黒岩宇洋君 無所属の黒岩宇洋でございます。
 午前中の質疑の中で、本法案は品性を欠くという御発言がございました。私は、品性を欠くのはこの法案ではなくて旧日本軍だと思っております。戦時性的強制被害者問題は、やはり認識、感覚の問題だと私は考えます。少なくとも我が国は過ちを認めたわけですから、その過ちによって不幸を味わった又は味わっている方々に対して誠意を持って償いましょうというこの認識、感覚が重要だと考えています。私は三十五歳ですから、あと半世紀近く生きていかなければなりません。そして、きっとこの国で生きていくでしょう。半世紀後のこの国の国民にこの国を世界の平和をリードする国として届けるには、今から半世紀前のさきの戦争の国家責任を明確にし、そして清算することは不可欠です。その観点からも、この法案は成立させなければいけないと考えております。
 それでは、質問に移らさせていただきます。
 午前中に、戦時性的強制被害者の数というのが約七万から二十万という御答弁がございましたが、現存する戦時性的被害者の数というのは何名ぐらいと推計されていますか。
○吉川春子君 公式にはどこでも把握されておりません。正確に知ることは極めて困難だと思います。問題は、どれだけの被害者が名のり出るかであり、これを本法案十条で設置されている促進会議で調査することになります。
 アジア女性基金によれば、償い金を受け取った元慰安婦は三か国、台湾、韓国、フィリピン三か国で二百八十五人であるとしております。また、従軍慰安婦問題に詳しい金さんの調査によれば、二〇〇二年四月現在、韓国において被害者として名のり出ている人は二百五人、台湾は五十八人、オランダは七十八人です。そのほかの国の人数も載っておりますけれども、その他インドネシア、中国、北朝鮮など、ほとんど数がつかめない国もあり、人数を正確に把握することは困難です。しかし、事柄の性格上、今後名のり出る被害者が無制限に増えるということはあり得ないと思います。
○黒岩宇洋君 そうしますと、第三条二項で、名誉回復の措置には、戦時性的強制被害者に対する金銭の支給を含むものとするとありますけれども、この金銭の支給というのは一体具体的にどういう方法をイメージされているのでしょうか。そして、アジア女性基金ですと償い金として一律二百万円の額を支給していますが、今法案での名誉を回復するための措置としての支給額はおよそ幾らぐらいが妥当であると考えますか。促進会議が検討する内容だと思いますけれども、お答えできる範囲でお願いいたします。
○吉川春子君 法律で額は決めていないで、執行者に任せています。
 今、御指摘のように、促進会議で具体的に検討して措置が取られると思いますが、参考までに申し上げれば、具体的には、被害者が大変高齢に達していることから、年金の形ではなくて一時金の支給を考えております。また、その場合、アジア女性基金の償い金が一人当たり韓国、台湾では二百万、フィリピンもそうですね。それと同時に、これはODA予算等で福祉・医療事業ということで、韓国、台湾の例では一人三百万、フィリピンは百二十万だったと思うんですけれども、そういう額が支給されておりまして、その額を下回らない金額というふうに具体的には考えております。
○黒岩宇洋君 では次に、杉浦副大臣にお尋ねいたします。
 この法案の是非は私たち委員が審議するんですけれども、国会法で、議員の発議に係る予算を伴う法律案については、内閣に対して、意見を述べる機会を与えなければならないとあります。ですから、政府側としての意見を是非お聞きしたいと思っております。政治家としてでも結構なんですが、この本法案についての是非、副大臣としての御意見をお聞かせください。
○副大臣(杉浦正健君) 政府の態度といたしましては、もう何回も御説明申し上げているとおり、請求権の問題についてはサンフランシスコ条約並びに関連する各国との取決め等で解決、法的には解決が済んでいると、各国に対する賠償は誠実に履行してまいっておるという立場でございますが、しかし、この問題が女性の尊厳と名誉を著しく害したという見地から、女性基金を通じまして政府の河野談話に示されました立場からできる限りの御協力をして今日に至っておることは、もう再三繰り返して御答弁申し上げたとおりでございます。
 ですから、法律としては、議員立法でございますから、御提案いただいて検討されることはもちろん議員の専権でございますけれども、政府の立場といたしましては、現在行っておる事業、女性基金に対する協力、広く国民の皆様の御協力をいただきながら、御理解と御協力をいただきながら対応すると、政府として最大限協力するということで対応させていただくのが最善であると思っておる次第でございます。
○黒岩宇洋君 今日の答弁の中でも、副大臣は、戦時性的被害者問題の解決は終わっていないという表現もされますし、そして、政府としては女性基金による対応が最も適切だと、こうも答えています。ということは、今現在、償い金を受け取りたくても受け取れないというような、本当にひどいようなこの現状で十分であると、そういう認識をされているんですか。
○副大臣(杉浦正健君) この基金による認定問題については、各国政府、台湾の場合はNGOですが、よく御相談しながら進めてまいっているところでございます。
 十分であるとか完全であるとか、そういうことは申し上げるつもりはございませんですけれども、私どももこれで終わりだとは思っておりませんが、一応審査が各国とも終わったということでございますので、募金は中止をしたということでございます。
 基金の事業については、医療事業等まだ残っている部分もございますので、これから基金とよく相談をしながら、どういう事業ができるかよく相談してまいりたいと、こう思っておる次第でございます。
○黒岩宇洋君 どう聞いても、終わったし十分だとしか私には聞こえないんですけれども。
 改めて申し上げますけれども、一九九三年に政府は、この従軍慰安婦問題の旧日本軍の直接的ないしは間接的な関与を認めて、おわびと反省の気持ちを表したと。しかし、ですが、国家補償についてはいつものサンフランシスコ条約や二国間条約で解決済みであるということで拒否しました。いつもの常套句です。
 しかしですよ、九六年のクマラスワミ女史や九八年のマクドゥーガル女史の国連に提出した報告書では、日本政府の法的責任を認め、そして被害者に対する国家補償を求めました。そして、そのことは各国の支持を得ています。さらに、ILOの条約勧告適用専門家委員会も日本に対して国家補償を求める報告を行っていると。ということは、すなわち国際社会が我が国に対する国家補償を求めているわけです。ということは、それにこたえることによって国際社会の評価は高まるということになります。
 にもかかわらず、それを拒否するということは、国家補償をすることによって国際社会の評価を得るというこの国益を更に上回る我が国が損なう国益、すなわち本来得られる国益よりも損なう国益が多いと、そういう私は判断だと思うんですが、この法案が通るないしは国家補償をすることによって我が国が損なう国益とは一体何ですか。副大臣。
○副大臣(杉浦正健君) 委員が国益、考えておる国益と私の考えておる国益が同一かどうかは分かりませんが、この問題については、河野談話に示された政府としての道義的責任の立場に立って、各国と相談しながら女性基金を設立して、それを通じて女性に対する償いを行っていくことが最も適切だと、それが国益にかなうゆえんだという政府の判断であると申し上げるほかはないと思います。
○黒岩宇洋君 最初の二問で現存の被害者の数とそして支給額を聞いたのは、大体どのくらいの予算措置が必要かなというのを私はおぼろげにつかみたかったからです。多くても千人ぐらいで、一人当たり多くても五百万といえば、五十億円ですよね。この額について多いか少ないかは議論があるとは思いますけれども、しかし、我が国の国家予算から考えれば、これを払うことが大変に国益を損なうとも思えません。
 やはり、何十万人と言われる強制連行者への補償問題とか、こういったことが僕は根底にあるんだと思うんですが、やはりサンフランシスコ条約と二国間条約で解決済みだ解決済みだという、本当に鼻を木でくくったような答弁がある限り、私たちは本当に納得はできません。納得できないことだけ伝えまして、ちょっと先に進ませていただきます。
 じゃ、提案者の方にお聞きいたします。
 第七条に、政府は、措置を講ずるに当たっては、国民の理解を得るように努めるものとするとありますが、この国民の理解を得るとは具体的にはどういうことを意味するのでしょうか。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 国民の理解を得るためには、まず、戦時において旧日本軍が性的強制に組織的に関与したという事実や、さらには旧日本軍の非人道的な行為によって被害を受けた人たちがいたという事実を隠すことなく国民に伝えることがその基本だと思います。
 具体的には、戦時の慰安婦問題に関する調査結果、公文書の公開等があります。これらすべてに関して地方公共団体や関係団体等の協力を求めながら積極的な広報を行う必要があると考えます。
 一方、被害者のプライバシーに留意することは言うまでもありません。元慰安婦の名誉回復に向けて、政府が率先して真摯に取り組む姿勢を示せば、国民の理解がより一層進むことは確かだと考えます。
○黒岩宇洋君 この戦時性的強制被害者問題については、国民の間には多様な考えがあるところです。国民の理解を得るということは大変困難なことではないかと思いますけれども、また、そのことによって、国民に一定の歴史認識を強制することにつながるのではないかという疑問が残ります。これについてお答えください。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) まず旧日本軍が関与した性暴力の事実を示す公文書を公開して事実を明らかにすることで、国の責任の所在を示すことが必要だと考えます。特に、一九九一年より政府が行った元慰安婦からの聞き取り調査を、被害者の許可を得て公開すべきだと考えます。国民に向けて地道な広報活動を続けることによって、必ず国民の理解が得られるものと考えています。
 また、被害者の問題について国民の理解を求めることは、歴史認識の強制ではなくて事実認識の問題です。事実を公開した上での歴史認識は個人の判断に任せるものであって、歴史認識の強要には当たりません。
○黒岩宇洋君 よく分かりました。
 そうしますと、今度、第四条第二項第三号に「いまだ判明していない戦時における性的強制及びそれによる被害の実態の調査に関する事項」とありますが、この「事項」というのは具体的にどういうものを指すのでしょうか。そしてまた、まだ何が判明していないとお考えでしょうか。お答えください。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) まず第一に、被害者を特定するための性的強制の被害の実態が明らかになっていません。連行経路、それからいわゆる慰安所での実態等については各国支援団体がそれぞれ調査していますが、それぞれの調査にはばらつきがあって、日本政府として実態を調査することが必要だということです。また、インドネシアのように、元慰安婦が支援団体に自分は慰安婦であったと申請していても、その実態調査までは手を付けていない例もあります。
 それからさらに、今後の各国支援団体等の調査によって新たな被害者が名のり出ることも考えられます。よって、各国の調査状況を踏まえた上で、関係国政府、被害者、支援団体と協議の上、対象者特定のための調査を進める必要があります。
 第二に、被害者を生んだいわゆる日本軍性奴隷制度自体の仕組みなどが、その全体像がまだ判明していません。また、旧日本軍の関与でいわゆる慰安所が広範にわたって造られた経緯も分かっていません。政府の一九九二年の第一次調査、九三年の第二次調査は、全体像の解明には不十分です。アジア太平洋地域における被害の実態の全容を解明するには、いまだ各省庁、各関係団体で眠っている公文書の公開を含め、旧連合国や関係各国とも連帯しながら徹底した事実究明が必要です。
 ただし、調査のために既に判明している被害者に対する措置が後れることがないよう、関係国政府、被害者、支援団体が協議の上、調査を進める必要があります。そして二度と繰り返されることがないように、その調査結果を次世代に伝えていくことが被害者の名誉回復につながることと考えます。
○黒岩宇洋君 ちょっと細かなところをお聞きしますが、第十条から第十二条にあります、「戦時性的強制被害者問題解決促進会議」とあります。これは一体どのような機関で、この会議を設ける趣旨は何でしょうか。内閣府の答弁に少しあったようですけれども、あえて提案者にお聞きいたします。
○委員以外の議員(田嶋陽子君) 長いタイトルで、戦時性的強制被害者問題解決促進会議。以下、省略して促進会議とします。
 この戦時性的強制被害者問題の解決を促進するための施策を総合的に進めるための特別な機関として、それを内閣府に位置付けることが適当だと判断します。促進会議を内閣府に置く理由は、問題解決の促進を図ることが国際的に緊急な課題とされていて、そして、解決促進のための施策については、関係行政機関相互の調整を図り、総合的かつ強力に推進する必要があること、また、内閣の重要政策となっていることなどから、内閣総理大臣を長とし、関係行政機関の長等によって会議が組織される必要があるからです。
 なお、促進会議の組織や運営その他会議に関し必要な事柄は政令で定めることとしています。また、この会議及び会議に置かれる調査推進委員会の庶務については内閣府が担当することを想定しております。
 それから、趣旨についてですが、政府が問題解決の促進を図るための施策をできるだけ速やかにかつ確実に進めていくためには、重要な事柄の審議、関係行政機関相互の調整、施策の実施の推進等の事務を総合的に進める組織が必要です。そのために、関係行政機関の長などにより構成される促進会議を内閣府に置くことにしました。
 以上です。
○黒岩宇洋君 最後の質問をさせていただきます。
 国連特別報告者のマクドゥーガル女史が、従軍慰安婦問題の解決は、現在も世界各地で起きている集団レイプなどの女性への暴力廃絶への第一歩であると語っています。今でも戦争が起こるたびに女性の性的被害者が発生しています。平時でも、マクドゥーガル女史がおっしゃるような集団レイプや、そしてドメスティック・バイオレンス等が絶えることはございません。
 これら女性への暴力問題の解決のために、本法案の重要性は私は非常に高いものと考えています。この法案を入口として、更に女性の暴力の問題に切り込んでいくお考えはあるのかないのか、これを杉浦副大臣と、そして提案者にお聞きします。それぞれお答えください。
○副大臣(杉浦正健君) 本法案を入口としてというわけではございませんが、女性に対する暴力の問題につきましては、我が国としても国際社会において積極的に活動しております。
 一九九六年に北京において行われました世界女性会議を機として、女性に対する暴力撤廃のための国連婦人開発基金信託基金が設立されました。それに対しまして積極的に拠出を行っております。拠出金額は一九九七年以来大体年額四十万ドルから五十万ドルで、全体の額の大体二〇%から四〇%ぐらいをこの信託基金に対して拠出いたしております。
 この基金におきましては、主にアジア、中近東、アフリカ、ラテンアメリカ、中央アジア、東欧、ロシア等の途上国向けに事業を実施しておりまして、例えば、モロッコでは障害を持った女性、女子に対する暴力に関する調査及び防止、ジョルダンでは性的虐待被害者の支援とか、ジャマイカでは女性に対する暴力に関する男性の態度の変化、これはいずれも国連が実施しておるわけですが、拠出することもいたしております。今後とも引き続き支援を行っていく考えでございます。
○吉川春子君 黒岩委員の御指摘のように私たちも考えております。
 いわゆる戦後処理問題の中で特に慰安婦問題が大きな注目と関心を集めたのは、日本が侵略戦争のときに犯した国家犯罪ということと、それに加えて、その後の女性の地位向上とともに人権意識が高まり、女性への暴力撤廃の国際世論が形成された結果であると考えます。今でも、御指摘のように、世界各地で発生する戦争、紛争地での集団レイプ、集団妊娠などが後を絶ちません。
 国連は九三年に女性への暴力撤廃宣言を採択し、第四回世界女性会議、一九九五年の北京の行動綱領でも、また二〇〇〇年の国連女性特別会議の成果文書でも女性に対する暴力撤廃が盛り込まれました。
 慰安婦問題は、遠い昔のことではなく、今解決を迫られているこうした問題と直結しています。本法案が成立することによって、こうした問題に対して世界全体で取り組むための世論形成に役割を果たせると考えております。政府が本気で女性の暴力撤廃問題に取り組もうとするならば、過去に日本が国家として犯したこの女性への暴力、この問題をきちっと反省し、謝罪し、決着をつけること、そのことを避けては通れないと私は考えております。
○委員長(佐藤泰介君) 本日の質疑はこの程度とし、これにて散会いたします。
   午後二時三十分散会